小説 川崎サイト



開いている

川崎ゆきお



 終電間近の駅前は人通りも少ない。郊外の小さな駅なのでそんなものだろう。
 宇喜多は改札を抜けた。人生の岐路に立つ……と言うほどのものではないが、決断を迫られていた。
 下手をすると明日からのパートの仕事がなくなる。収入が途切れるのは嫌だが、今の仕事は自分には合っていないと思う。
 人生の岐路……ではないのは、どちらに転んでもパート生活を続けているだけのことで、大きな変更点はない。
 我慢して続けるべきか、次のパートを探し始めるべきかを決めなければいけない。
 宇喜多は部屋に帰る前に、喫茶店とかで少し考えてみたいと思った。
 だが開いていそうな店はスナックかカラオケぐらいだ。ファミレスはかなり遠くにあり、自転車でもなければ無理だ。
 部屋に帰り、自転車でまた行くのも気が進まない。
 学生の頃、通っていたジャス喫茶があったがカフェになり、最後は飲み屋になり、その後すぐに消えた。あの店なら深夜までやっていた。
 駅の反対側に小さな商店街があるが、最初からシャッターが閉まっている店ばかりだ。
 しかし、そちらのほうがゴチャゴチャした一角があり、遅くまでやっている店が出来ているかもしれない。
 宇喜多は久しぶりにそちら側へ渡る踏み切りを渡った。
 踏み切りは橋ではないが、線路という川が流れている。踏み切りという橋を渡らなければ向こう岸へは渡れないのだ。
 案の定、駅前は寂れ、タクシーだけが並んでいる。既に市バスは終わっている。こちら側は駅前開発の荒波に飲まれることなく、静かに枯れている。
 宇喜多は早速商店街に入った。トンネルのように暗い。営業が終わっていることもあるが、殆どの店はシャッターを閉めたままなのだ。
 それでも行灯看板がポツリポツリとある。生き残っているのはやはりスナックだ。
 宇喜多はアーケードの端が見えたので、引き返そうとしたとき、純喫茶の看板を見た。
 暗闇に明るく純喫茶と読める。
 宇喜多は近付いた。窓ガラスの向こう側にテーブルが見えるし、客もいる。
 宇喜多はやっと座れると思い、ドアを開けた。
 しかし、そこにいる客やウエイトレスを見たとき、入ってはいけない場所であることを知った。
 誰も動いていないのだ。しかし人形ではないことも確かだった。
 宇喜多は息を切らせながら踏み切りを渡り直した。
 
   了
 




          2006年8月9日
 

 

 

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