小説 川崎サイト

 

視線感知能力

川崎ゆきお


「視線を感じるのです。僕は超能力者でしょうか」
「感じるのですか?」
「はい」
「どういうふうに?」
「ですから、視線を感じるのです」
「詳しく」
「誰かが僕を見ているような視線を感じ、周囲を見渡すと、物陰からこちらを見ている人がいました」
「知っている人ですか」
「いえ、知りません」
「それは何処で感じましたか」
「何となく誰かに見られているように感じました」
「だから、どの部分が反応したのでしょうか?」
「見られているという感じです」
「感じ? その感じをもう少し詳しく話していただけませんか」
「誰かに見られていると思ったのです」
「思うと感じるとでは違うと思うのですが」
「はい、でもそんな感じでした。誰かに見られていると急に来たのです」
「来たのは頭にですね」
「はい、ぱっと電球が点くように閃いたのです」
「そういう体験は、これまでにもありましたか」
「何度もあります」
「どういう場所で」
「人がいる場所です」
「そこで、誰かがあなたを見ているのが、分かるのですね」
「背中に目があるように、感じたのです。背中には目はありませんから、これは第六感だと思います」
「はい」
「それは、よくあることなのですが、気の回しすぎです」
「誰かが念を送っているのじゃないのですか。見ているという念が伝わって、その念を受け取るわけです」
「はい」
「ですから、僕は念を受け取ることが出来る。キャッチすることが出来る」
「それがどうかしましたか」
「これは凄い発見だと思って、これを調べて欲しいのです。僕は超能力者かもしれません。だから、先生に調べて欲しいのです」
「残念ながら、私は超能力の研究はしていません。ごく一般的な心理学者です」
「先生の専門は何でした」
「深層心理学です」
「ああ、潜在意識がどうのと言うあれですか」
「古典的な無意識についての研究もしていますが、心理学の歴史を研究するのが私の専門です。だから、個々のことはあまり詳しくはないのです」
「でも、誰かに見られているってことを、感知する能力については結構有名なんじゃないですか」
「はい、有名です」
「これは超能力でしょ」
「気のせいです」
「いやいや、そうではなく……」
「あなたは意識的になっていたのでしょ。視線に」
「そりゃ、人が多い場所に出たときは、そうでしょ」
「あなたは、先に誰かに見られていると思ったのですよ」
「いえ、感じてから、そう思ったのです」
「これは仮説ですが、誰かに見られていると言うことを、無意識のうちに思ったのです。だから思ったことを気付かない」
「そうなんでしょうか」
「例えば後ろから誰かが見ているとしますね」
「はい」
「そして振り返る。このとき同時なんです」
「はあ?」
「気付いたことをダイレクトに行動に伝えているのです。ですから、気付いたときは既に振り返っている」
「誰かに見られているというのは気付かないのですか」
「気付いていますが、体が先に動いているのです。あなたの意識には知らせないでね」
「はい、じゃ、僕のは感知する能力で、これは意識的に分かるということで、超能力ではないでしょうか」
「ここでは、残念ながら、それは、気のせいです」
「そうなんだ」
「しかし」
「はい」
「他の先生なりを訪ねてみてください。場合によっては超能力と認めてくれる先生もいますから」
「分かりました」
 
   了

 


2012年8月6日

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