小説 川崎サイト

 

雀と蝉

川崎ゆきお


 山田は散歩中、駐車場で格闘を見た。
 雀が蝉と格闘していた。雀は一方的に攻撃し、蝉は防戦さえ出来ない状態だ。しかし、蝉は小さな虫ではない。雀はどうやって食べるのだろうか。きっと分解するのだろう。しかし、その雀は間違って蝉に挑んだのかもしれない。
 なぜならその雀は小雀だった。小さいのだ。体だけではなく、蝉は食べにくいので、止めるべきだと言うことを親雀から教えてもらわなかったのかもしれない。
 雀は米を食べる。そのため、案山子を立て、稲穂の刈り取り前の防御策としている。また虫も食べるだろうが、この場合身にあった虫だと思える。小鳥なので、ミミズなどが好ましい。柔らかく食べやすそうだ。
 だから、小雀が蝉を攻撃しているのは、間違いだろう。間違った狩りをしているのだと山田は考えた。
 だが、雀の攻撃程度では蝉は死なない。小雀が攻撃しているのは、果てようとしている蝉で、もう元気を失っている。それを狙って攻撃したのか、または、偶然見つけて、食べ物だと思い攻撃したのかは分からない。周囲に雀はいない。だから、この小雀の単独行為だ。
 蝉はつつかれ、裏返されたりしているが、まだまだ動いている。猫も蝉を狙うが、食べると言うより、おもちゃにしている。
 小雀が蝉を狙ったのは、見間違えたのかもしれない。ハエだと思ったのだろうか。上空から見たときは、ハエに見えた。それで降りてくると、意外と大きい。しかし、せっかく地面に降りたのだから、引き返すのもしゃくだ。食べてやれと思った。
 これが大きな雀だと、そういう遊びはしないだろう。小雀だからこそ、それをする。
 だが、山田が見た雀の世界なので、蝉を食べる雀は普通のこととしてあるのかもしれない。
 人は動物を見て、擬人化することが多い。同じ生物として、底辺で繋がっているためだろ。だが、種類が違い過ぎると、感情移入の織り糸が分からない。しかし、雀がうるさく騒いでいるのは、擬人化される。蝉はその儚さがキャラになる。
 そして今、観察者としての山田は、この小雀の動きを自分の就職問題と照らし合わせて考えてしまった。もしかすると、自分はこの小雀のように、蝉と格闘しているのではないかと。
 しかし、雀が蝉を常食とするかもしれないが、聞いたことはない。もしそうなら常に雀は蝉を狙っているはずだ。
 だが、小雀は訳が分からない状態で、偶然蝉と遭遇し、格闘し、それを食べて、これはいけるとなれば、その後の雀が変化するかもしれない。この小雀が親になり、小雀と一緒に蝉を狙い出すかもしれない。
 そういう偶然から、変化が生まれる。
 山田はそう考えることにした。
 
   了

 


2012年8月7日

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