小説 川崎サイト



トイレのドア

川崎ゆきお



 飲み会がお開きとなり、駅のターミナルで解散となった。
 二次会に誘われたが内田はうまく断り、脱出した。
 内田は十分酔っており、これ以上付き合うと帰ってから仕事が出来ない。
 会社の仕事とは別に自宅で内職をしていた。
 どこかで酔いを冷まそうと思い、喫茶店を探した。
 地下鉄乗り場の近くにパーラーのようなものがあった。朝はモーニングを食べる客で混み合っていそうな店だが、遅い時間帯なので客はまばらだ。
 テーブル席が空いていたので、どっかりと座った。安っぽい椅子だがクッションがあるだけまし。
 個人の店なのも今時珍しい。ウェイトレスが注文を聞きにくるのも新鮮な気がする。
 内田は内職がうまくいけば会社を辞めようと考えていた。飲み会やカラオケが苦手だし、社内で親しい人間もいない。それどころか嫌な連中ばかりなのだ。
 内職は携帯電話用の画像を作る仕事だった。手間はかかるが単純作業で、おもちゃでも作っているような感じだ。
 大した収入にはならないが人手不足らしく、さばき切れないほどの原画が送られてくる。それを別の人間に振り、上前をはねれば会社の給料を軽く越える。
 それをビジネス化すればいいのだ。しかし、会社を辞めるのは軌道に乗ってからだ。
 内田はそんな夢を見ながらアイス珈琲をすすった。
 アルコールがまだ抜けないのか、妙に大胆な気分が続く。
 地下鉄の改札口が近いためか、行き交う人々も多い。
 内田は人の流れをぼんやり眺めているうちに尿意がきた。
 通りと反対側の壁にドアがある。
 内田は用心のため鞄を持って行くことにした。
 ドアを開けると真っ暗だ。振り返ると入り口がない。すべてが暗闇だ。
 内田はトイレがあることを疑った。この地下通りの店は公衆トイレを使うことになっている。自前でトイレを持っている店はない。
 内田はそのことを思い出しながら意識を失った。
 すぐにウェイトレスが内田を見つけた。物置の中で倒れ込んでいた。
 急に立ち上がったので目が眩んだのかもしれない。
 
   了
 




          2006年8月10日
 

 

 

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