小説 川崎サイト

 

お盆の頃

川崎ゆきお


 お盆の頃の風景を西岡はたまに思い出す。子供のころだ。親戚の家に泊まりに行った。
 古い家並みが続く町で、あとで知ったのだが、城下町だった。
 お盆はもう秋の気配がするのだが、昼間は暑い。
 真夏の影よりも、長く延びている。
 城下町の道はくねっていることが多いが、ここは直線の道が多い。しかも地平線まで続いているのではないかと思えるほど長い。果てが見えないのだ。
 そして、行き交う人も影がゆらりゆらりと歩いているように見える。コントラストが強く、空を見れば、両側の建物は夜のように暗い。
 都会育ちの西岡は、それが不気味に見えた。そして、当然のことながら、お盆で帰って来た霊達がウロウロしているように感じた。
 家紋や家名が入っている提灯が玄関先や門の前にあり、それも不気味だ。全世帯で一斉に葬式でもやっているような怖さがあった。
 また、塀の外側から見た寺の吹きさらしも気持ちが悪かった。痩せた鯉のぼりのような形をしていた。
 真昼なのに、夜のように暗く感じる通りを歩いていると、急に人がいなくなり、町が無人になる。そして、物音が全くしなくなる。
 さっきまで鳴いていた蝉も、休憩しているようだ。
 それは、何かが来るので、鳴りを静めているような感じだ。そして、やって来る何かを近付いたので、表にいた人も家に入ったのだろう。
 小学生だった彼は、ここで急に怖くなった。何に怯えているかは分からないが、怖いことが起こることだけは予測できた。
 当然、妙なものがやって来たわけではない。この城下町ではよくあるお盆の町並み風景なのだ。正月の門松と同じようなものだ。
 西岡は、何がやって来るのかは分からないが、こうなれば、それと対決するのも悪くないと、開き直った。怖い物見たさだ。逃げる方が怖いのだ。むしろ向かい合うほうがいい。
 そして、果てなく続く道に影が現れた。しっかり見えないが、こちらにやって来る。
 それは、意外と早い。
 きらびやかな衣装をまとっている。シルエットに近いのだが、光っているのだ。そして、スクーターに乗っているようだ。
 至近距離まで近付いたとき、それが坊さんであることが分かった。お盆なので家々を回っているのだ。
 西岡は大人になってからもお盆になると、そのときの光景を思い出す。
 
   了


2012年8月9日

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