自転車に乗った幼女の幽霊を社長は見た。
社員の長谷川が呼び出された。
「君かね、ユーレイは?」
「わたくしは幽霊ではありません」
「そう呼ばれてるのだろ?」
「知りません」
長谷川は細長で頬がこけ、見るからに幽霊ぽい。女子社員からユーレイさんとあだ名されていた。
「体が悪いのかね?」
「いえ、健康です」
「かなり痩せておるようだが、食べておるのかね。給料は払っておるはずだが」
「はい、食べています。食欲もあります」
「君は幽霊に詳しいだろ」
「そんなことは」
「幽霊の親戚のような社員だと聞いたぞ」
「用事を」
「そうだったな。実は幽霊が出るんだ。それで、調べて欲しい。幽霊には幽霊を当てるのが良策だからね」
「わたくしは幽霊ではありません」
「いや、幽霊が君を見れば、仲間と思い、油断するに違いない」
幽霊は深夜、会社の倉庫の中庭に出る。工場と住宅地が同居しているようなゴチャゴチャとした町だ。
社長と長谷川は倉庫の上にある事務所で見張ることにした。
「どんな幽霊ですか?」
「子供だよ。小学校に上がる前の幼女だ。自転車に乗っておる」
「それは気持ち悪いですねえ」
「この時間から出よる」
事務所のアナログ時計は深夜の一時を差していた。
「近くの子供が遊びに来ているのではありませんか」
「門は閉めておる。入りこめんよ」
「そうですか……」
「君が見れば、正体が分かると思ってな」
「だから、幽霊なんでしょ」
「その幽霊の正体だよ」
子供のかん高い声が聞こえた。
「出たぞ」
中庭を自転車で走り回っている子供がいる。
「見えたか」
「はい」
幼女はキャッキャキャッキャとはしゃぎ声を立てながら走り回っている。
「幽霊ではないですよ」
「朝まで走り回っておるんだよ。それでも幽霊ではないのかね」
「そうですねえ」
長谷川は幼女と目を合わせてしまった。幼女は人懐っこい笑顔を返した。
「明日、調べて見ますが、きっとこの近くの子が交通事故で亡くなられたのでしょうね。この中庭は広いので、思いっきり走りれるので、遊びに来ているんでしょう」
了
2006年8月11日
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