小説 川崎サイト

 

盆物怪談

川崎ゆきお


 これは怪談だが、噂話に近い。といって都市伝説と言うほどではない。伝説として伝わりにくいためだろうか。または、伝えたいと思う人が少ないのかもしれない。
 その地味な怪談はお盆物に属する。盆物だ。お盆そのものが霊的な行事だ。だから、怪談が発生する密度が濃い。
 お盆の頃、というだけで、もう怪談に入っていける。
 その怪談とは他でもない、商店街の怪談だ。日本全国至る所にある商店街に当てはまる。ただし、旧市街とか、寂れた商店街に限られている。シャッター通りと言われる以前に、もう営業を終えた店屋がある。景気とは関係なく、後を継ぐ人がいないため、店を閉めたのだ。
 それが自転車屋であったり、洋服の仕立屋だったり、金物屋だったりと、店屋は何でもいい。
 さて、その怪談とは、閉まっているはずの店屋がお盆の頃だけ開くのだ。昔の商店街などでは、お盆を休むことが多い。世間が盆休みに入ると、商店街も閉まることがある。そして、逆に今まで閉まっていた店が、開くのだ。
 もうこれだけで、何が来ているのかが分かる。何が戻って来ているのかが分かる。
 だから、それ以上の説明は不要だろう。
 ただ、そのものが出てこない店屋もある。雨戸が開き、ほこりだらけの店内を裸電球が照らしている。
 店は開いており、営業中のように見えるが、肝心の店の人がいない。もし店番でもしていれば、これは本物の怪談だ。具体的に出たことになる。
 店を開けたのは、先祖の霊の通り道のためかもしれない。店舗兼住宅の店屋の場合、店の入り口が、この家の正面玄関になるためだ。そのため、家族の誰かが、お盆の頃だけ、開けたのかもしれない。
 ただ、見知らぬ人が、そこを通りかかると、物置のようになっている自転車を見て、これは何かと思うだろう。
 また、ほこりを被った金物屋を見て、何と思うだろうか。
 怪談的彩りを出すため、いつも閉まっている果物屋が、お盆の夜になると煌々とした裸電球で眩しいほど光を放っているのを見た。などとなる。
 さらにレベルを上げると、完全に閉まっているシャッター通りがすべて開き、賑やかな通りになっている。だが、人の気配は一切ない。
 
   了


2012年8月20日

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