小説 川崎サイト

 

間道をゆく

川崎ゆきお


 田村は脇道へハンドルを切った。渋滞しているからだ。この辺りは何度かドライブできている。その枝道は村落の中を走っている。村道だ。寄り道になるのだが、村の外側を走っている県道を行くより早いかもしれない。車が少ないためだ。
 気晴らしのドライブでも、やはり快適に走りたい。それだけのことだ。
 田畑を抜けると村落に入っていった。農家が左右に並び、村のメイン通りらしい。ここは狭いので、外側に道路が出来たのだろう。しかし、その道が混んでいるので、何ともし難い。
 田村はカンで、この村道が逆にバイパスのように早いように感じた。これは直感だ。
 村のメイン通りに沿って、古い農家や新築の家、酒屋などの看板が見える。道は狭いが一方通行ではない。何とかすれ違える。
 前方に人がいる。道の真ん中をゆっくりと歩いているようだ。杖をついた老人だ。後ろからの車に気付かない。田村はスピードを緩めながら接近する。エンジン音で気付くはずだ。
 しかし、耳が悪いのか、道の中央を歩いている。どちらかへよってもらえれば追い越せる。だが至近距離までよっても気付かない。仕方なく田村はクラクションを軽く鳴らす。
 杖をついた老人は転倒する。いかにもその音で驚いたように。
 派手な転倒ではなく、ぐらっとなりながら、座り込んだような体勢だ。
 そのクラクションを聞いたのか、家から人が出て来た。年寄りと子供だ。
 座り込んでいる老人を他の老人が起こしている。
「大丈夫ですか」
 村人は反応しない。
 そして、道は塞がれたままだ。
「ちょっと失礼します」
 そこをどいてくれ、という意味だ。
 起ち上がった老人は、田村の車に向かってくる。
「お怪我ありませんか」
 老人はさらによってくる。その後ろから、村人も近付いてくる。
「ごめんなさい。お怪我ありませんか」
 村人は車の横に出て、そのまま後方へ去った。
 だが、その倒れた老人は、何処へ行くのだろう。最初田村が見たときは後ろ姿だった。だから、来た道を戻るのだろうか。
 他の村人も車の後方へ去った。
 前方が開けた。
 田村は車を発進させた。
 村道は曲がりくねっており、前方が見渡せない。二つ目の緩いカーブを曲がったところで、また村人が道の中程にいた。老婆が三人ほどで立ち話をしている。
 田村はクラクションを鳴らした。
 それが合図になったのか、また家から村人が沸き出てきた。小さな子供もいる。どの村人もゆっくりとした動きで、村道を行ったり来たり、または横切ったりしている。
 田村は刺激を与えてはいけないと思い、車を止めた。
 すると、後方からも村人が沸いてきた。
 前後を塞がれたのである。
 そして、徐々に村人達は車を取り囲むように群がってきた。
 人間ではないかもしれない。
 それは田村のカンと言うより、そんなことをする理由が何もないからだ。
 車が揺れだした。
 まさか御輿のように担がれるわけではないものの、揺すられることで、気が途転した。危険を感じたのだ。
 田村は、思いっきり空ぶかしさせた。威嚇だ。エンジン音と振動で、脅しているのだ。下手をすると急発進し、大変なことになる。さすがにその音で前にいる村人は道を開けた。
 田村は今だとばかり、発進した。前方に人はいない。かなりのスピードで家並みが続く場所を抜けた。
 左右は田畑で、その先に県道が見える。相変わらず渋滞している。
 その近くのドライブインの主人によると、この県道をよく通るドライバーでも、あの抜け道は通らないらしい。ただ、宅配便や郵便の車は大丈夫なようだ。
 そして、それを知っているドライバーは、あの村落をゾンビ村と呼んでいる。
 
   了


2012年8月27日

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