小説 川崎サイト

 

旅は道連れ

川崎ゆきお


 ある冒険家が非常に強いモンスターのいる場所に来てしまった。配達の用事をいいつかったのだ。これは命令ではない。仕事だ。だから報酬はもらえる。
 誰でも出来る仕事ではないので、商人も冒険家の力を見定めた上で依頼した。これは冒険家の装備などを見てのことで、全くの初心者なら、依頼はしない。
 冒険家は始めて行く僻地へ向かった。町から離れるに従い、モンスターは強くなる。その冒険家でも倒せるモンスターがいる場所なら安全だ。しかし、徐々にモンスターが強くなり、襲いかかられると逃げるしかなかった。冒険家は短剣しか持っていない。
 目的地はまだ遠い。ちょうど中間を過ぎた辺りだろうか。
 さらに奥地へ行くと、もう逃げきれないかもしれない。逃げるのも実力のうちだが、逃げても追いつかれて襲われればそれまでだ。逃げ足が早いのも実力だが、そろそろそれを越えてきている。次にモンスターと遭遇した場合、見つからないようにするか、刺激を与えないように、近づかないことだ。
 目的地に近い地域に入ったとき、冒険家はもうそれ以上近づけなくなった。
 冒険家が街道沿いの茂みに隠れていると、そこに傭兵が現れた。旅の兵士だ。頑丈そうな鎧を着ている。両手でないと振り回せないようなロングソードを背負っている。
「この先へ行くのかい」
 傭兵が聞いてきた。
 傭兵は最僻地の町で兵士募集の話があると聞いて、向かっているらしい。
「モンスターが怖いのなら、一緒に行ってもいいぜ」
 冒険家は当然、それに従った。願ってもないことだ。
「なーに、私も怖いのさ。油断するとやられる。しかし、このあたりのモンスター程度は倒せないと、傭兵試験も不合格さ」
「そんな試験があるのですか」
「町まで来れたことがその証だ。特に試験はない」
「じゃ、僕も合格するでしょうか」
「君の職種は何だい」
「まだ決めていません」
「募集しているのは戦士だからね。君は防具も武器も貧弱だ。ということは商人かい。いや、商人にしては荷物がない。手ぶらでこんなところまで来るのはおかしい」
「配達です」
「じゃ、君は普通の村人なのかい。農民かい」
「いえ、冒険家です」
「冒険家では食えんだろ」
「だから、配達業です」
「そうなんだ。配達すれば報酬がもらえるんだ」
「そうです」
「まあ、いいや、最果ての町へ行こうぜ」
「はい、よろしくお願いします」
 今度はモンスターに襲われても、連れの傭兵が倒してくれるので、問題なく町にたどり着けた。
 傭兵は駐屯兵舎へ向かい、冒険家は商店街へ向かった。
 それだけだ。
 
   了
   


2012年9月3日

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