小説 川崎サイト

 

小学校の怪談

川崎ゆきお


 これは都市伝説ではなく村伝説だ。都心やその周辺では起こらないミステリーなので。
 一人の少女が転校してきた。といってそれまで学校へ行っていたのではないので、引っ越し先の小学校へ入学したことになる。だから、転校生の話ではない。
 その小学校は廃校になる寸前だ。しかし、村民はボランティアで小学校を守っている。補修したり、掃除したりと。
 廃校を免れたのは児童が来たからだ。一人でも児童がおれば、学校は存続できるらしい。
 その年の春、二人が卒業したため、児童数ゼロになっていた。来年の春なら、一人いる。次の春には三人いる。次の春は一人だ。問題は今年の春で、その年齢の子供がいなかった。
 だから、引っ越して来た家族に、その少女がいることは大きな救いだったのだ。これは偶然この村へ両親が引っ越しただけで、小学校存続のための駆け引きは一切ない。
 入学式は学校側から三人。少女の両親の他に村民が多く出席した。
 授業が始まると、実際には校長と担任の先生しかいない。家庭教師のようなもので、個別指導を受けに通うようなものだ。
 少女の通学路には立ち番が数カ所で立っている。村人だ。滅多に車は通らないが道路を横断しないといけない。
 校舎はかなり大きい。銅山があり、それが盛んだった頃建てられた校舎だ。今もそのころの社宅跡が遺跡のように残っている。ほとんど更地だが。
 昼休み、給食も出る。これは村の人が弁当を作ってくれるのだ。昼休みや休憩時間、運動場に出ると、村人が遊んでくれる。高齢者なので、小学一年生の動きと近いので、大人相手でも十分こなせる。
 走れば、少女のほうが早かったりする。
 村の長老まで、お昼休みに少女の相手をしてくれる。少女は学校存続の恩人なのだ。そのため、みんなから可愛がられた。
 少女はいろいろな村人と知り合いになった。お友達だ。
 少女は無遅刻無欠席で夏休み前を迎えたので、講堂で表彰式が執り行われた。他に褒めることがなかったのだろうが、褒めたかったのだ。
 講堂にはいろいろな人が参列していた。村の長老もいるし、いつも遊んでくれているお爺さんやお婆さんもいる。
 参列している人の中で、見たこともない人もいる。しかし、少女と目が合うと、優しく微笑んでくれる。
 羽織袴の老人もいる。
 このあたりで、もう来るものが来ているし、出るものは出ている。
 昼休み、一緒に遊んでくれたお爺さんお婆さんも怪しいものだ。これが生まれたときから村に住んでいる子供なら、見当が付くが、名前も顔も初めての村人相手なので、見分けが付かないのだろう。
 少女は文字通りいろいろな村人から可愛がられ、今日も楽しく学校へ通っている。
 
   了


2012年9月13日

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