小説 川崎サイト

 

魔が差す

川崎ゆきお


 あるショッピングモールのドアに妙なステッカーが貼ってある。建物内へ入るドアは複数ある。自動ドアや手で押すドア。そのドア一つ一つにステッカーが貼れている。それは妙なステッカーではなく、禁煙や危険物持ち込みなどだ。
 禁じるステッカーだけではなく、犬のマークがある。
 竹下は最初それをWi-Fiかと思った。通信サービス会社が犬のマークを使うため、この建物内でネットが出来るのかと勘違いした。実は犬の持ち込み禁止だった。
 ドアなどあまり気にしていなかったのだが、その後、ここへ来るたびに、ドアに貼られているステッカーを見ることにした。暇なのだ。
 このショッピングモールは複雑な構造になっており、新館と休館があり、その間を繋ぐまた別の建物がある。一つの大きなビルではないのだ。
 そのため、出入り口も複数あり、ドアの数は非常に多い。
 当然ドアのあるテナントもあり、そこにはクレジット会社のマークなどが貼られている。ここには犬の持ち込み禁止のステッカーはない。そのお断りは建物全体なので、犬を連れた客は、そもそも入って来れないので、省略してもかまわないのだ。
 竹下はふと、妄想を起こした。封印だ。魔除けなどのお札がないことだ。そんなものはなくても当たり前だ。もしそんなお札が自動ドアに貼られていれば、おかしいだろう。
 それは、魔物が入り込むおそれのあるショッピングモールということになる。犬の散歩中、ショッピングモールの敷地内に入り込むことがある。そのまま建物内にはさすがに入り込まないだろうが、その可能性もある。車に小型犬を乗せて来ている客もいる。駕籠などに入れて持ち込むこともあるだろう。
 しかし魔物は想定されていないはずだ。だから、そんなものをあえて持ち込み禁止にする必要はない。それに魔物を持っている人などいないだろう。ただ、知らないうちに魔物と一緒になっていることもある。魔物に取り憑かれたり、つきまとわれている人だ。
 魔物は客とは関係なく、単独でショッピングモールに入り込むこともある。
 だから、魔封じのステッカーが貼られていれば、それは、入り込むおそれがある建物だと言うことになる。
 竹下はそこまで考えたとき、そういう想像をすることが、そもそも魔に差されたことになるのではないかと考えた。
 では、このショッピングモールは魔物に対しての対策はないのかというと、そうではない。最初この建物を建てる前の更地の時、起工式をやったはずだ。このときお払いをしたので、もういいのかもしれない。だが、その後のメンテナンスをやっているだろうか。地霊はそこで鎮まったとしても、その後やって来た魔物に対する備えが出来ていないように思える。
 竹下は犬のステッカーを見て、そこまで膨らませてみた。
 魔は内にあるのだろうか。
 
   了


2012年9月17日

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