小説 川崎サイト

 

散歩軍団

川崎ゆきお


 高齢化社会になると、町内をうろうろしている老人が多くなる。徘徊老人なのか、ただの散歩なのかはよく分からない。これで、犬でも連れていれば、何の問題もないのだが。
 では、何が問題なのかというと、散歩者と不審者の違いが分かりにくいと言うことだ。その見分け方は荷物にある。
 ふつうに町内を散歩している人は、ほぼ手ぶらだ。ジョギングのように健康のために歩いている人は、分かりやすい。この場合、手ぶらだ。ハンカチや手ぬぐいぐらいは持っているだろうが。
 不審者は何らかの荷物を持っている。この場合は鞄だろう。大きな荷物を持ち歩いているのは、不審者ではなく、ホームレスに近い装備になる。これも分かりやすい。
 上田は犬の散歩でも健康のためでもなく、ただ単に外に出て歩いているだけに、オーソドックススタイルの散歩者だ。その上田だが最近気になっている人たちがいる。つまり複数だ。
 上田のイメージでは、国定忠治、清水の次郎長となる。そんなマタタビものの旅烏スタイルで歩いているわけではないが、どう見ても地回りの親分のように見えてします。または街道一の大親分のように。
 近くに昔の街道が走っているが、その道沿いのボスなどはいない。犬はつながれているので、縄張り争いは出来ないが、猫は出来る。
 それと同じように、テリトリーのようなものが散歩者の中で出来ているなのだ。そして、複数の親分がいる。
 街道筋ではなく町内筋の親分がいるのだ。その散歩者は渡世人の大親分のような強面のする大男で、上田は彼のことを国定忠治と読んでいる。だから、この話は、すべて上田の主観と言うより、勝手に作ったキャラだ。上田劇場の中だけに存在するキャラで、観客も上田しかいない。
 その国定忠治には子分がいる。左右を守るように二人。先頭に一人。後方に一人。団体さんだ。いずれも老人で、子分は子分にふさわしい身なりだ。
 この国定忠治とは別に清水の次郎長一家がいる。こちらに似たような陣形だが、左右の二人はいない。やや人数が少ない。
 この二人の親分さんが鉢合わせすることがある。狭い町内の歩道なので、どちらかが道を譲る必要がある。
 次郎長一家は一列だが、忠治一家は参列だ。忠治の左右にいる子分が引けばいいのだが、それでは親分の防御が弱くなる。だから、その隊形を崩さない。
 そこで睨み合いとなる。勝負はその前についている。人数の多い忠治が勝つのだが、次郎長も簡単には引けない。少しだけ抵抗する。その抵抗は単に睨み合うだけのことなのだが。
 その種の団体散歩グループは複数ある。この二つの一家以外にもいる。彼らは人数を競い合うことだけを主旨としており、睨み合うとは、人数を見せ合うことでしかない。
 不思議と国定忠治一家に人気があり、今のところ無敵だ。
 だが、二人か三人の少数一家もあり、それらが連合することで、一家として振る舞うことがある。このとき、最大派閥の忠治一家も負けることがある。
 上田はまだどの一家にも所属していない。そういう無所属も、無所属だけが集まることもある。このグループが一番人数的には大きくなる。ただ、烏合の衆なので、まとまりはないし、帰属意識もない。さらにアイデンティティもない。
 上田は最近ますます散歩が楽しくて仕方がない。そういう一家の覇権争い風景が楽しいためだ。
 
   了

 


2012年9月27日

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