小説 川崎サイト

夢の駅

川崎ゆきお


 合田は夜中に目を覚ました。目が開いたのだ。まだ途中駅のはずだが、夜汽車に乗っているわけではない。道の駅があるように、夢の駅があるのだろうか。ただ、この場合、移動はしていない。布団の中での話だ。
 寒いので、それを体が気付いたためだろう。
 寒さで目を覚ます。
 これは合田の中ではよくあることだ。
 季節は秋から冬に向かっている。季節は動く、だから、季節にも途中駅があるのかもしれない。季節の駅だ。
 この季節の駅と夢の駅が重なった。ものは全く違うのだが、合田の中では統合性がある。ただ、それは他人に言える代物ではないが。
 まだ夏布団を使っていた。それで寒いのだ。
 合田は起き上がり、押入から毛布を引き抜いてきた。他の掛け布団の下に挟まっていたのだ。
 毛布は四角く畳まれていた。縦方面に二つ折り、さらにも一度折っている。毛布をはずした駅で、きっちりと収納したのだろう。だが、洗濯はしていないし、干してもいない。
 これを内側で使うのは危険だ。口元に、冬の汚れが全部ついているようで、気持ちが悪いからだ。
 合田は夏布団の上に、その毛布を掛けた。するとぐっと重さが伝わり、掛け布団が安定した。そして、丈夫な巣が出来たような気になり、そのまま眠った。
「こういう日常ネタは、使えませんかねえ」
 合田は小説を書いている先輩に聞く。
「なぜ聞くの」
「こう言うのがネタになれば、いくらでも書けるんですが」
「書けるだけじゃだめだよ。それにすぐに飽きてくる。日常なんて、変化がないから、書くことがなくなるしね」
「ああ、なるほど」
「しかしねえ」
「しかしがあるのですか」
「しかしでも、何でもいいが、ネタよりも書き方が面白ければいいんじゃないかな」
「面白いって、ギャクを入れるわけですか」
「そうじゃない。スタイルだよ。文体だよ」
「ああ、それはむつかしそうだ」
「だがね」
「だががあるんですか」
「だががあるんだ」
「どんなだがですか」
「夢の駅はいい」
「は、はい」
「タイトルがいい」
「別に、これにはタイトルがないのですが」
「夢の駅。いいねえ。これ、使うよ」
「ああ、よくあるんじゃないですか」
「考えても出てこないよ。こんなタイトルは」
「でも、毛布の話は夢の話じゃないですよ」
「途中で起きただろ。だから、そこが駅なんだ」
「別に夢を見ていたという記憶はないのですが」
「タイトルだけでいい。タイトルだけで」
「そんなものですか」
「いいねえ。夢の駅」
 合田は意味が分からなかったが、ほめられたので、気分は悪くなかった。
 
   了


2012年10月31日

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