小説 川崎サイト

 

幽霊駅

川崎ゆきお


 これは都市伝説に属するので、従って信憑性はない。嘘だと分かった上での怪談だ。話の中身が怪しげなのではなく、話そのものが怪しいのだ。
 地方都市から少し離れた市街地を走る私鉄がある。その沿線での話だ。
 電車が走っているので、駅がある。ここでは幽霊電車の話ではなく、駅の幽霊。駅幽霊だ。
 紀伊の国駅と丸善駅の間に、その駅は出現する。
 地元の人は新紀伊の国駅と呼ぶ場合と、新丸善駅と呼ぶ人がいる。最寄り駅に近い側で呼ぶようだ。
 その場所は、両駅のちょうど中間で、線路は住宅地の中を走っている。商店が並ぶ市街地ではなく、ベッドタウンのようなものだ。町はそこそこ古い。
 幽霊駅は宅地の中にあるが、なかなか寄りつけない場所だ。幽霊駅なので、駅に続く道というものがない。宅地の生活道路のようなところを通らないと到達できない。
 線路そのものが、宅地の中に埋まり込んでいる感じで、歩行者専用の踏切がある程度だ。線路を横切るこの踏切の道にしても細すぎる。だから、車止めがあり、自動車は渡れない。幽霊駅はその踏切場所にある。
 幽霊駅の目撃談は、別の大きな踏切からのもので、何気なく線路を見ていると駅が非常に近くにあることに気付く。その踏切からは紀伊の国駅がかすかに見える。それが近すぎるのだ。線路に沿った道がないため、回り道しながら、古い駅舎にたどり着く。改札口もある。この私鉄は全て自動改札だ。幽霊駅にはそれがない。
 幽霊駅は木造で、かなり古い。だから、二世代ほど前の人でないと、記憶にないはずだ。しかし、特定の駅と似ているわけではない。
 幽霊駅には切符を買う小窓がある。その上に路線図がかかっているが、すすけていてよく見えない。あるはずの新駅や、乗換駅はあるが、そこからの支線はない。だから、この幽霊駅の時代が分かる。
 幽霊駅だけに、駅員はいない。だから改札を抜けるのは簡単らしい。
 この私鉄のどこ駅も無人駅は存在していない。やはり、幽霊駅ならではのことだろう。
 ホームで電車を待っていると、いつもの電車が来るわけではない。もうこの時点で、幽霊鉄道と化しているのだ。
 そして来た電車に乗ると、それは幽霊電車となるが、その先の話はない。
 この都市伝説は幽霊駅がメインで、幽霊電車は尾鰭に近い。
 町の激しい移ろい具合は事実だが、幽霊駅は明らかに嘘で、移ろう方角が違う。それだけに安心して聞ける。
 
   了

 


2012年11月2日

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