小説 川崎サイト

 

赤面人と青面人

川崎ゆきお


 赤面人は元気がいい。全てうまくいっており、夢と希望に満ちている。
 青面人は失敗した人々で、元気がない。未来への希望もない。
 赤面人は躁状態で、青面人は鬱状態だ。ただ、それほど単純ではなく、内面には色々なものを含んでいる。
「君もすぐに青面人になるんだから、その準備をしておいたほうがいいよ。今稼いでいるようだけで、全部投資しないで、へそくりのようなものを作り、隠しているといい。自分でも何処に隠したのかが分からないほどね」
「順風が吹いているんだ。そんな心配はいらない。右肩上がりだからね」
「今時珍しいねえ」
「ああ、それほど欲張っていないからさ。順調順調」
「でもすぐに青面人になるんだから、同じことだよ。だから、青面人に落ちたとき、少しでもましな青面人でいられるようにすべきだね」
「君は赤面人になったことはあるのかい」
「一度もないけど、なりかかったことはある」
「僕も最初は青面人だったけど、諦めないで努力し、絆を大事にし、一日一番の相撲をしっりとることで、赤面人になれたんだ」
「それは良かったねえ。僕はすぐに諦めてしまうし、人付き合いが下手だし、面倒なので人と人との絆は大事にしなかったなあ。それに一日一日を大事にしなかったよ」
「じゃ、簡単じゃないかな。赤面人になることは。方法を知っているんだから。」
「だから、それが大していいものだとは思えないんだ」
「本当はなりたいのだろ。お金もあるし、地位もある。偉そうに出来るよ。優越感に浸れるよ」
「そうなんだけど、赤面人って、維持するのが大変じゃない」
「日々努力だよ。精進だよ。それは怠るべきではない。油断するとすぐに青面人になるからね」
「だから、それが大変だと思うんだ。忙しそうだし」
「そんなことはないよ。こうして何のメリットもない青面人の君と雑談しているんだからね。これって赤面人から見るとサボっていることになるんだ」
「そうなんだ。だったら、君は油断している最中だ」
「これはこれで絆だからね。君との人脈がいつか役立つかもしれない」
「ああ、そうだね。じゃ、僕を引っ張り上げてくれないかなあ」
「じゃ、何と交換する」
「交換」
「僕に役立つことさ」
「ない」
「は、早いなあ。解答が」
「だって、考えなくても、即答出来るから」
「じゃ、駄目だな。それまで待つから」
「ああ、ありがとう。でもそのとき、君は青面人に落ちているかもしれないよ。その場合、僕の方が青面人としては上位にいるかもしれない」
「そうならないように頑張るさ」
 人は誰でも青面人に戻る。だから、最初から青面人でいる方が得ではないか。というのが、この青面人の考えだ。そして、そういう発想だから赤面人にはなれないようだ。
 その青面人は仲間の青面人の群れの中で、先ほど赤面人とお茶をしたことを語った。まるで自慢話のように。
 この赤面人は、この赤面人群の中では上位にいるようだ。だから、赤面人群の最下位にいるより、居心地がいいのだろう。
 
   了


2012年11月6日

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