小説 川崎サイト

 

共存

川崎ゆきお


 ポコ、ポコッとコーヒーを作る装置から音がする。二人分なら、すぐに出来るはずだ。
 吉田は高島を部屋に迎え、話し込んでいる。同僚だ。
「共存すべきだな」
「それは分かっているが」
「異なる意見でも共存すべきだ」
「意見だけではなく、受け入れにくいんだ」
「何処にもそんな人間はいるさ」
「存在そのものが許せない。あのタイプの人間は」
「人種が違うって、言いたいのかい」
「発想が違うんだ。考えが根本的に違う」
 吉田は立ち上がり、もう出来たコーヒーをカップに入れる。
「君は協調性がないんだ」
「合わそうとしたけど、駄目なんか。不快なんだ。相手も不快だと思うよ。そりが合わない」
「じゃ、無視すればいいじゃないか」
「まあ、そうなんだけど、見ると不快だ」
「相手もそう思っているんだろねえ」
「そうだ」
「そこを何とかするのが大人の世界だよ」
「異なるものとは共存出来ない。これが結論だ」
「じゃ、どうするの」
「だから、僕から身を引く。もう辞めるよ」
「十年も勤めたんだろ。もったいないじゃないか。仕事がいやで辞めるんじゃないんだろ」
「あいつがいる限り、一緒には仕事出来ない」
「よほど相性が悪いんだね」
「そうだ」
「まあ、飲めよ。冷めるぞ」
「ああ」
 高島はブラックで飲む。
「肌の合わない相手とは一緒に暮らせないようなものさ。だから棲み分けるしかない」
「もう結論は出ているんだ」
「気が合わないだけならいいんだよ。それぐらいの差はどうってことはない。しかし奴は別だ」
「相容れない者同士が共存する。これは出来ない相談なのかい」
「僕には出来ないね。ずっとストレスだ。我慢出来ない」
「互いの意見をすりあわせていくというようなことは」
「奴は引かないだろう。僕も引きはしない。だから、話し合いは最初から決裂さ。お互いの存在を認め合うことは、どちらも死ぬことになる」
「分かった」
「君はどうなの。何ともないの」
「奴と関係するメリットがあるからね」
「それが僕にはない。だから我慢しても、何も得られない」
「じゃ、メリットがあれば許せるのかい。共存できるのかい」
「出来る」
「そうだねえ。人間なんて現金なものだからなあ」
「そういうことだ」
「次の会社では、そんな奴がいないことを願うよ」
「ああ、こればかりは入ってみないと分からないけど」
 高島はコーヒーを飲み干した。
「苦いだけだな、このコーヒー」
「ちょっと濃すぎたかも」
「うん」
 
   了


2012年11月13日

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