小説 川崎サイト



苦手

川崎ゆきお



「気に入らない人間がいるのです」
「それは誰も同じですよ」
「同じなんです」
「はあ?」
「同じ種類の人間なんです」
「気に入らない相手がですね」
「そうです」
「そういうこともあるでしょう」
「気になるのが気に入らないんです」
「何かトラブルでも?」
「ありません」
「支障が出るとかは?」
「ありません」
「ではあなたの問題でしょう」
「私が悪いのですか」
「相性の問題で、あなたが悪いのではありません。悪いのは相性です」
「ですが、相手は何ともないのです。苦しんでいるのは私だけで双方向じゃないのです」
「双方向……ですか」
「一方的に私だけが嫌な感じを受けているのです」
「仲が悪いのですか?」
「悪くはありません」
「まあ、何処にでも誰にでもその種の関係はあるものですよ」
「先生にもありますか」
「ありますよ」
「どうすればよいのですか、この感情を」
「おそらく相手には悪気とかはないと思うのですよ。好き嫌いの問題です。食べ物にもあるでしょ」
「先生はどうなさっていますか」
「問題にしないだけです。問題にならない問題だからです」
「でも私は問題にしています。だからこうして相談に」
「それが問題になるのは、あなたの心の問題です。いいですか?」
「構いません」
「まあ、ここはそういう場所ですが、それにしても問題が小さすぎます。お友達に話せばよいことかと」
「誰にも言えません。あいつのことを苦手だと思っていることを」
「贅沢な問題です」
「贅沢?」
「それぐらいは無視できる問題です」
「先生とは相性が悪いようです」
「そうですか?」
「分かってますよ。私が我が儘なことぐらい」
「仲良くなる必要はないのですよ。仕事関係の人間ならね」
「はい、理解したことにしておきます」
 
   了
 
 
 
 


          2006年9月1日
 

 

 

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