小説 川崎サイト

 

問題

川崎ゆきお


 今、関わっている事柄と、別の事柄とが似たような構図に見えることがある。個々のものは違うのだが、似たパターンなのだ。
 これは構造が似ているということで、一方の事柄がうまくいけば、その方法で、他の事柄も解決するのではないかと考えるのだが、それは机上論だ。実際には解決しないことが多い。未解決のまま引きずっていたりする。
 未解決であることも、同じ構造だとすれば、それも含めて、やはり同じ構造なのだ。
 これを考えている城島は、自分がイメージした構図や構造に無理に持っていこうとする面を感じている。非常によい内省だろう。
 パターン認識した方が分かりやすいためだ。
「相変わらずややこしいことを考えているんだね」
 竹田が突っ込む。
「問題が解決しないので、そんなことを考えていたんだ」
 城島は正直に答える。
 問題の解決には、問題の意味を考えれば、答えは出やすいと言われているが、これは問題を問題にするという手だ。
「答えの先送りだよ。ポイントをそちらへ向けて、問題から逃げているんだ」
 竹田がさらに突っ込む。
「うん、そうなんだ。問題なんてなかったんじゃないかと、問題そのものを溶かしてしまいたいんだと思う」
「問題を分解して、なかったことにするんだね」
「そうそう」
「問題があるから答えを出そうとする。だから、問題を立てなければ、答えも出す必要はない。そう言うことだね」
「うんうん」
「だったら、問題などないと思い込めればいいんだ」
「そうなのか」
「どうせ解が出ない問題なら、問題にしないほうがいいよ。どうせ駄目なんだろ。解けないんだろ」
「ああ、何ともならない問題だからね」
「だから、問題にしないことさ」
「悪くないなあ。その手も」
「しかし、こちらに問題はなくても、世間が問題にして、押し寄せてくるかもしれないぜ」
「それは困る。何でもいいから、押し寄せられるのは困る。その構図にはなりたくない。だから、あの手この手と考えているんだ」
「相手を黙らせればいいんだ」
「そんカードが思い付かないから、困っているんだよ」
「まあ、なるようになるさ。時間が経てば鎮まることもあるから」
「そうだね」
 城島は、何となく安心した。完璧ではないが、気休めにはなる。
「もうひとつ方法がある」
「教えてよ。竹田君」
「問題を増やすんだ」
「さらに増やすのかい」
「そうすると分散する」
「それは逆じゃないのかい」
「そうとも言える」
「うーん」
「足の爪が軽く痛いとき、歯痛になったらどうなる。歯の痛みに神経が行って、足の爪の痛さは目立たなくなる」
「ああ、その構図か」
「要するに、誤魔化し誤魔化しやっていくしかないんだよ」
「つまり、気の持ち方か」
「それが出来れば、楽だよ」
「出来るかなあ」
「随分と厚かましい、顔の皮が厚い人間に思われるかもしれないね。無神経な」
「その鈍さ、いいと思うなあ」
 城島の場合、実際には問題が多すぎて、それで忘れてしまっていることが多い。だから、忘れていた問題を、思い出さないことがコツなのだろう。
 解決しない問題は、解決させようとしないことも、一つの方法だ。方法は複数ある。しかし、一つでも思い付けば、御の字だろう。しばらくは、それで持つだろう。
 
   了

 


2012年12月1日

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