小説 川崎サイト

 

インスピレーション

川崎ゆきお


「インスピレーションとは電気でしょうか」
「昔の人は血が上ると言ってましたよ」
「電気じゃなく、血圧?」
「気が高ぶるというのでしょうか。興奮した状態です」
「躁状態のことですね」
「確かなことは分からんが、閃きが起こりやすい状態だね」
「それって、電気じゃないですかねえ」
「閃きと、雷が似ているからかい」
「先生は最近閃きますか」
「スパーク回数が低くなったねえ。それはあまり刺激が来ないからだ。ぼんやりと日々過ごしておると、刺激物に接する機会が少ないからねえ」
「じゃ、刺激物が、閃きを誘発するのでしょうか」
「さあ、それはよく分からない。何でもない日々の中でも閃きはある。小さな閃光だね」
「僕は最近インスピレーションが沸かないのです。どうすればいいでしょうか」
「そうか、年齢には関係がないのか。君のような若い世代なら、色々な欲があるだろう。その欲がエネルギーにはなるはずだ。欲が導火線のようなものになる。まあ、動機だね」
「欲はいろいろあるのですが、本当の閃きはないのですよ。理詰めです」
「まあ、インスピレーションは起こそうと思っても出ないのじゃないかなあ。あるとき突然来たりする」
「だから、そのインスピレーションが出やすい状況を作ろうとしているのですが、なかなかそうはいきません」
「ああ、しかし、それは体に悪いから辞めたほうがいいよ。無理に閃かなくてもいいのでね」
「しかし、一度電気が走ると、気持ちがいいんです。何か加速度が付いて、走りやすくなります。面白いことを思い付いたりして、楽しくて楽しくて。そう言うのがまた来ないかなあと、期待しているのです」
「なるほど、わくわく感だね」
「そうです。わくわくしたいのですよ。それにはインスピレーションが必要なんです。点火が」
「自動発火しないのかね」
「最近しません」
「そのほうが平和でいいよ」
「そうなんですが、刺激が欲しいです」
「元気なんだ」
「はい」
「インスピレーションが電気だとすると、スパークしやすい状況を作るしかないか」
「どうすればいいのでしょうか」
「まあ、適当の動くことだよ。犬も歩けば棒にあたるだ」
「痛いじゃないですか」
「多少のリスクは必要だ」
「しかし、インスピレーションを天啓だと解釈した場合は、特に何もしていなくても、来るときは来るんじゃないかな」
「天のお告げですか」
「そうだ」
「それはちょっと採用できません」
「雷の電気も天から来るんだから似たようなものだよ」
「分かりました。ここは感心しておきます」
「うん、ありがとう」
 
   了


2012年12月7日

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