小説 川崎サイト

 

喫茶巡礼団

川崎ゆきお


 吉田はその喫茶店へ行くようになってからしばらく立つ。三ヶ月ほどだろうか。
 趣味は喫茶店の梯子だが、行きつけの店が変わる。
 さて、その喫茶店だが、セルフサービスのわりにはサービスがいい。セルフなので、自分で運ばないといけないが、店員の態度がいい。だから、直接受けるサービスではなく、接客態度がうまいのだろう。それらは監視カメラで記録されるため、マニュアル通りやっていないと、管理が入るのだろか。
 その店で、吉田が知った客がいる。他の喫茶店で、見かけた人間だ。それが複数いる。
 年配の女性二人組から吉田は声を掛けられた。
「あんたも、ここですか」と。
 吉田は確かにこの二人に見覚えがある。狭苦しいファストフード店で数回見たことがある。二人は長時間お喋りをしていた。
 そのファストフード店へ吉田は夜に行っていた。そのため、最初は思い出せなかった。
 また、小太りの中年男も、そのファストフード店でよく見かけたのだが、それも夜だ。
 しかし、吉田が新規に開拓した店は、昼間にしか行っていない。さらに、ゲームをやっている団体がいる。四五人ほどのグループだ。このメンバーとはよく顔を合わせる。ファストフード店でも、深夜のファミレスでも。
 また、何年も前から、よく見かける前髪で顔を隠した精神状態が悪そうな中年女も。
 吉田は最近喫茶店の梯子を控えているので、それらの顔見知りの出没状態は分からない。新入りもいるに違いない。
 狭い街なのだが、自転車で移動するだけでも結構な距離だ。吉田はそれを苦にしていない。だから、喫茶店梯子客も苦にしないのだろう。
 そうすると、吉田の住む場所にある喫茶店は、梯子客にとっては「大きな一つの店」なのかもしれない。
 時間帯により、喫茶店を変えているのは、滞在時間の問題だろう。同じ店に一日三回も四回も行けないからだ。
 最初それに気付かせてくれたのは、年配の二人組だ。お喋り組なので、これは一日一回だろう。
 同じ人達が喫茶店を巡回しているのだ。そして、立ち寄らなくなった店が出てくる。その理由は吉田も共有している。それは、夏場いやにクーラーが強いとか、冬場、暖房があまり効かなくて寒いとかだ。これは共感だろう。それを共有している。
 それで、この梯子族は、状況が悪くなると廃都にする。
 これは地元密着型ではなく、自分の町内から外れたところまで出かけている。いわば都会型だ。
 そして、新しく出来た喫茶店に行くと、それら梯子族の中の誰かと遭遇するはずだ。
 吉田はその後、新規開発はしていないので、もっといい場所があるのかもしれない。その首都へ行くと、より多くの顔見知りと会えるかもしれない。喫茶店巡礼団のメッカだ。
 ただ、この梯子族の横への繋がりは、何もない。「よく見かける人」程度の。
 
   了


2012年12月8日

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