小説 川崎サイト

 

ドアの開け方

川崎ゆきお


 ドアの開け方がある。自動ドアは前に立てばスーと開く。または立ち止まらなくても、ドアに近付きつつある状態で開く。
 取っ手を引くなり押すなりすることで開くドアは、どちらなのかが分からない場合は、小刻みな動作になる。一発で決まれば、次を刻まなくてもいい。小刻みになるのは、最初引いたとき、開かないので、押すのだが、実は最初の引き加減が悪かっただけだ。最初押すのか引くのかは、任意だ。その建物やドアのタイプで、何となく分かる。例えば家のドアなら、外側へ開くことが多い。
 次は蝶番式ではなく、ドアをレールの上を滑らせるタイプ。この場合、押しても、手前に引いても何ともならない。横に引かないと駄目だ。この場合も自動的に扉が走ることもある。
 次の扉を開けるときとは、物理的なドアのことではなく、新たな世界を開くことだ。この世界は、世界地図や日本地図ほどには大きくない。仕事で会社の門を叩く場合の門も、実際の門ではない。
「押して駄目なら引いてみな」という言葉がある。この場合、手前へ引くのか横へ引くのか、そしてその横は左右のどちらか、ということではない。それにこの場合、ドアではなく、動かしにくい物体や、事柄に対してだろう。
 ドアの場合、思っていた通りのワンアクションで開くことが望ましい。自動ドアなら開けるためのアクションそのものも必要ではない。
 引くや押すだけでも一筋縄ではいかないことがある。ドアが硬すぎたり、横開きならレールに砂が混じり、すんなり引けないことがある。
 ドアの開け方は分かっていても、手入れされていないと、もたつく。
 立花は、横開きのドアを賢明に押したり、手前にグーと引っ張っている子供を見かけた。親がすぐに、正しい開け方で、スーと横へ滑らせた。そのドアは最初力を入れれば、その後力まなくても、滑り出す。そして、閉めなくても、戻ってくる。
 立花も最初は開け方が分からなかったので、手前に引いたり、押したりしていた。二回目からは開け方を理解したので、今は戸惑うことはない。
 こんなことを知ったからといって、大したことはないのだが、これも一つの経験知だ。単純な事柄なら、この経験知は結構役立つ。
 通路のドアを開ける。そして中に入る。これは特に難しい話ではない。
 
 了

 

 


2012年12月10日

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