小説 川崎サイト

 

夜見る夢

川崎ゆきお


 夜見る夢と現実との違いについて高橋は考えていた。
 大きな違いははっきりしているのだが、その夜見た夢で深い感銘を受けたことにより、認識を新たにした。
 何を新しく考え直したのかというと、それは体験についてだ。現実体験よりも深い感銘を覚えたのだ。
 夜見た夢も経験に入るのだろうか。
 経験とは、昼間やっている仕事や暮らしぶり、それら営みから得ることが出来る。おそらく経験や実体験とはそれを指しているのだと思う。その中には夜見た夢は加えないのが普通だろう。
 経験から得ることがある。体験から身につくこともある。しかし、見た夢から同種のものを得られるとすれば、素敵な話ではないか。
 バーチャル体験とは身体を使わず、イメージだけで体験するものだが、身体を全く使わないわけではない。
 高橋はその夢を見た後、感銘、感動を覚えた。そして、それを本当に体験したものと同じように、自身に何かを与えてくれたと感じたのだ。
 それはダイレクトなイメージかもしれない。いきなり来た印象だ。
 その夢は高橋自身が登場していた。場所も出てくる人物も、高橋が過去体験したフィルムの断片かもしれない。
 これはオーダーメードなのだ。この夢を他の人に見せたとしても、さほど感銘を与えないだろう。場所やキャラを知っている高橋だからこそ、その意味合いが分かるのだ。
 これを高橋は名作夢と名付けた。
 その仕掛けは高橋劇場の監督が高橋の体験断片を編集して仕立て上げた作品なのだ。
 高橋は、その夢の観客なので、編集には加わっていない。監督でもなければ、シナリオライターでもなく、カメラマンでもない。
 しかし、その映像は、たった一人の観客である高橋にも分かりやすいアングルで撮られている。
 ただ、夢の中の絵なので、しっかりとは記憶していない。登場人物も特定の誰なのかまでは分かりにくいが、何となく思い当たる。場所もそうだ。
 いずれにしても本物のキャメラを回して撮ったものではないため、作り出された内部映像なのだ。だから、目でそれを見たわけではない。ダイレクトに記憶回路と接触したのだ。
 それよりも布団の中で見た夢に感動してしまったことに、高橋はショックを感じた。お手軽すぎるからだ。
 そして、夢も豊かな経験の中の一つとして加えてもいいのではないかと思った。実体験だけが体験ではないのだ。
 そして、それは過去劇場かもしれないが、編集し直すことで、名作にもなる得る。さらに言えば、サーと通り過ぎた過去を、もう少し丁寧に見ることでもある。
 せっかく体験したことでも、軽く通過することもあるからだ。
 夜見る夢は選択できない。ここはリアルに出来ている。
 
   了

 


2012年12月12日

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