小説 川崎サイト

 

個人世界

川崎ゆきお


 世界にはいろいろあるが、その中に個人世界がある。
 世界地図から見れば点だ。国や町には物理的範囲があるので指さすことができる。しかし、個人世界はそれができない。
 その個人が、町中で物理的に移動した場合、その個人世界の中心位置が移動したことになるのだろうか。
 その個人世界から見ると、移動した場所に馴染みがなければ、そこは中心ではない。これは根拠地や地元から見れば、移動場所が必ずしも中心場所ではない。
「これはややこしい」
 徳田は個人主義について、友人の沢田に話していた。
「個人主義と個人世界とは違うよ」と沢田。
「そうなんだけど、自分中心に世間を見た場合、その中心点は何処だろうか」
「その人が中心だから、中心が移動するんだ」
「それは物理的な移動であって、自分の世界が移動したんじゃない」
「ややこしい」
「つまり、中心でない場所に、偶然今いるだけなんだ」
「じゃ、中心は何処なの」
「だから、地図では指せない」
「それより徳田君、個人世界って、何なの。ただのプライベート空間、それともパーソナリティーのこと。個人主義だと、主義主張だとすれば、考え方の違い程度だろ」
「ライフスタイルかもしれない」
「ああ、なるほど。それが個人世界か。それより、どうしてそんなことを考えたんだい」
「会社で上司から世界観の違いだよ。って言われて」
「会社で世界観。大げさな」
「うん」
「世界観とは、世界がまずあって、それをどう解釈するかの見解の相違だろ」
「まあ、そうなんだけど。世界がまずあるんじゃなく、僕個人が先にあるんじゃないかと思うんだ」
「そんな順番、どうなっていても、現実は変わらないよ」
「そうだね」
「その上司が考えている世界がまずあるんだけど、これが間違っていることもある。つまり、その上司は個人的世界観を語っているかもしれない。どうだ。もう分からないだろ」
「そこまでは分かる。だから、全部が全部、個人世界じゃないかと思うんだ」
「まあ、多少のズレがある程度だろ」
「そのズレはどうして発生するの」
「自分の寸法に合わせているからだよ。都合よくね」
「それは修正出来る?」
「ああ、出来る出来る。そうしないと生きにくくなるしね。だから、君の場合、上司の世界観に合わせることだ」
「なるほど、それはやってるつもりなんだけど」
「その上司が交代すれば、また別の上司が世界観を持ち出す。そのときは、それにまた合わせればいいんだ」
「世界観て簡単に替えられるんだ」
「都合に合わせることが世界観なんだ」
「ああ、それも世界観の一つか」
「しかし、共有しにくい世界観もあるよ」
「世界なんだから、その中にはいろいろなものが含まれているんだ。都合のいいものだけを組み合わせて世界を作っているんじゃない」
「じゃ、世界には自分が知らないものも混ざっているんだね」
「本当の世界もそうだし、個人世界もそうだよ」
「じゃ、個人が移動すると、世界の中心も移動するって話は?」
「それはモバイル説だ」
「ノマドのようなもの?」
「たとえ話には限界がある」
「じゃ、トイレに立ったとき、個人世界の中心も移動する?」
「しない」
 物理的な世界と、抽象的な世界とがごっちゃになっているようだ。それも含めて世界だと沢田は言いたいのだろう。
 徳田はそれらを理解するものの、それは普段から普通にやっていることになる。
 そして、上司との関係は、結局はうまく立ち回ることで解決した。何も世界観など持ち出す必要はなかったのだ。
 
   了


2012年12月13日

小説 川崎サイト