小説 川崎サイト

 

オカラ山の冒険

川崎ゆきお


 オカラ山は魔の山と呼ばれ、一般の人は登らない。また、その麓まで来る人も希だ。なぜなら、その先は何もないからだ。無があるのではなく、その先は村も畑もない。山また山だ。その山岳地帯を抜けたところに人里はあるが、オカラ山経由では遠回りになる。
 つまり、オカラ山は用事がない山なのだが、冒険者にとっては、それが用件となり、結構人が訪れる。
 その麓に登山口があり、そこに薬屋が屋台を出している。日用雑貨品も置いている。
「また、馬鹿がお山に入ったとさ」
 薬屋が隣で屋台を出している焼き芋屋に言う。
 屋台は複数出ている。いずれも冒険家のための店だ。
「馬鹿呼ばわりはいけないよ薬屋さん。私らそれでオマンマいただいているんだからね。大事なお客さんじゃないか」
「まあそうなんだが焼き芋屋さん。あんた、こんなところで芋など出して儲かるのかい」
「買う人がいるから出してるんだよ。里の三倍の値段でも買う馬鹿がいる」
「あれあれ、あんたも馬鹿呼ばわりしているじゃないか」
「ああ、それは言っちゃいけないことだね」
「今年も戻ってこなかった冒険家が多いねえ。まあ、毎年だけけど」
「石工屋が笑いが止まらないらしいよ」
 登り口に石仏がずらりと並んでいる。上の方にはまだまだ余地がある。いくらでも並べることができる。
「冒険家って、金になるのかね」
 薬屋が聞く。
「ならないよ。だってオカラ山にはお宝は何もないよ。逆に空気が薄い」
「息苦しいねえ、中腹あたりから」
「行ったことがあるのかね」
「薬草採りでね。しかしもうちょいと先からは木も草も生えていないよ」
 薬屋は焼き芋をかじる。
「じゃあ、どうしてお山に登るのだろうねえ。登ってもすぐに戻ってくるんじゃ意味がないよ」
 薬屋が聞く。
「だから、それが冒険なんだよ」
「冒険ねえ」
「オカラ山を征服すりゃ、冒険家として名が上がるんだ」
「いくらでも登ってるじゃないか」
「ステータスっていうやつだよ」
「ほう」
「それにオカラ山に登ってないってのは冒険家としてはモグリだ」
「じゃ、オカラ山を征服すれば、冒険家として一人前ということかい」
「あんた何年、ここで商売してるんだ」
「ガイドになるわけじゃないから、いいんだ。知らなくても」
 薬屋は焼き芋を食べきる。
「ねえ、焼き芋屋さん」
「何だい。クレームかい。この芋について」
「そうじゃない。今、考えたのだが、冒険家の上がりは、石仏かなあってな」
「え」
「いや、あの石仏になるのが目的かなって」
「そんな訳ないよ。あれは失敗した冒険家のなれの果てだよ。だから供養しているんだ。化けて出ないようにな」
「しかし、馬鹿だねえ。用もないのに山に登って死んじまう」
「馬鹿呼ばわりはいけないよ。それで、こちとら食わしてもらっているんだからさ。褒め讃えないと」
「そうだね。ありがたやありがたやの冒険家様」
 
   了


2012年12月25日

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