小説 川崎サイト

 

磯村

川崎ゆきお


 磯村は海沿いの磯のある村に住んでいたので、磯村なのだが、そんなことは意識したことはない。つまり先祖は海沿いの村に暮らしていたのだろう。
 磯村が認識している先祖は四代前程度で、その先は分からない。そして、その先祖は海とは関係のない村に墓があった。菩提寺らしき寺は廃寺となり、その村へ行っても磯村家ゆかりのものは、何も残っていない。
 そして、磯村が知っている磯村家は代々農家だ。その先の見えていない先祖は海沿いで代を重ねていたかもしれないが。
 そのことが磯村に同関係するか……の話ではない。
 ただ磯村はスタンスがおかしい。立ち位置だ。決して怪しい立ち位置ではなく、怪しげな職業ではないのだが、いずれもメインを外している。
 これは発想方法だろうか。
 つまり、本来なすべきこと、メインとなることがあると、それを選ばないで、その周辺ごとをやってしまうことだ。
 何か決め事をしたとしても、それをすぐに投げ出し、脇見したものを選んでしまう。本道ではなく脇道に逸れるのだ。メインではなくサブを。
 それが徐々に分かってきたので、絶対に選びたくないものをメインにすることにした。つまり、最初から本命を選ばない。
 決め事から逸脱するのだから、脇道に本道を仕込ませておけば、脇道に流れやすい磯村の性格上、そちらへ行くはず。
 真っ直ぐ進めないのなら、最初から曲げておけばいいのだ。
 絶対にやらなければいけないことをはやりにくい。真正面から攻めるのが苦手なのだ。だから、別のものを真正面に当てることによって、どうせその真正面からは逸れるのだから、ずらしてやればいいのだ。
 北が正面なら西か東へ行ってしまう。だから、最初は東か西を正面にすれば、自ずと北を選ぶはずだ。この場合、南を選んでしまう可能性も出てくるが。
 決めたことよりも、横道に逸れるのが好きなのだが、その横道が今度は本道になってしまうと、また横道に逸れたがる。
「困ったものだ」
 左右だけではなく前後に振れる振り子だ。
 磯村は、このことに関して、海の磯と関係しているのではないかと考えた。
 しかし、寄せては返す波と振り子が似ている程度で、それ以上の意味は見いだせなかったが、波の上を漂う感じは、それなりに納得できた。
 
   了


2012年12月26日

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