小説 川崎サイト

 

僅かな差

川崎ゆきお


 同じことの繰り返しはそれはなりに安定している。
 あることをすると、ある成果が得られる。次にそのことをやると、また成果が得られる。何が得られるかが分かっており、それはほぼ確実に得られるとなると、これほど安定したものはない。ただ、その安定が飽きに変わることがある。同じことの繰り返しでは飽きるのだ。当然だろう。
 そのため、変化やハプニングを期待する。繰り返すことによっても変化は得られるが、ごく僅かな変化だ。そして、その変化も予測通りの変化のため、もう変化とは呼べない。ただ僅かながらも変化しているため、これはそれなりに安定しているのだ。
 その僅かさに不満を覚えると、もう少しダイナミックな変化が欲しくなる。
 それで、いつもの繰り返しではなく、少しだけ違うことをする。これは新鮮だ。いつもならやらないことをやるためだ。
 竹田は大きな変化を求め、大きく舵を取ってしまった。その先に得られるものよりも、その変化が欲しかったのだ。別の方向、方角、領域の。
 しかし、さんざんな目に遭い、元の場所に戻った。
 そして今、喫茶店で静かにコーヒーを飲んでいる。他の客はケータイやスマートフォンを見たり、本を読んだり、メモ帳に何かを記入したりしている。当然話している人もいる。
 竹田は何もしていない。唯々座っているだけだ。この有り難さを噛みしめるように。
 旅行に出た人が、やはり家が一番と言ってるようなものだ。
 そしていつもの繰り返しパターンに戻るのだが、これもまたしばらくすると変化が欲しくなる。飽きた頃に、また別のことをする。
 その別のことを達成するのが目的なのではなく、いつものパターンに強度を与えるためかもしれない。
 長く同じことを繰り返しやるには、たまに別のことをやるのが好ましい。というのが竹田の結論だが、これもまたパターン化してしまう。
 しかし、そのパターンの内容は、毎回違うので、決して同じパターンの繰り返しではない。その差は僅かなのだが、その箇所が美味しいのだ。
 
   了


2013年1月12日

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