特急電車が入ってきた。リーダー格の沢田が乗る。それを二人の男が見送る。リーダー格の男は軽く手を振る。ホームの二人は軽く笑顔を返す。
二人は次の各駅停車を待つ。
「どうなんでしょうね、あの沢田さん」
リーダー格の男の名前だ。
「変わった人だなあ」
「それだけですか」
「ちょっと問題かな」
「あの話、乗ります?」
「まあ……」
「沢田さん、その気でいますよ」
「君はどうなの?」
「ノーとは言えないでしょ」
「言ったら」
「話が進まなくなりますよ」
「沢田さんって、僕らが見ているものと同じものを見ているのかなあ。違うものを見て語ってるように思うんだけど、君はそう感じない」
「多少大袈裟だけどさ」
「大袈裟なんかじゃなくってさ、違うもの見てるんだよ」
「それは言い過ぎでしょ」
「だから、あの企画に乗るの、ちょっと怖いんだよ。君はそう感じていないの」
「詳しく知らないから、そんなものかなあ……て感じ」
「じゃ、危ないよ。彼の言ってるような世界じゃないんだけどさ」
「本当ですか?」
「間違ってはいないんだけどさ、認識の問題かな」
「沢田さんの認識が、普通とは違うんですか?」
「うん、黙って聞いていたんだけどさ、同じものを指しているんだけど、彼が語ると違ってしまうんだよね」
「事実とは違うんですか?」
「それも事実かもしれないけどさ、沢田さん独自の世界に見えてしまうんだ」
「それって、何なのかな?」
「個性が強いのかも」
「じゃ、問題はないですよね」
「ただね」
「何ですか?」
「ついて行けなくなるときがきっと来ますよ」
「じゃ、乗らないんですか」
「いやいや、乗るよ乗るよ。ただそれを覚悟しながらね」
各駅停車が入って来た。
二人は乗った。
了
2006年9月18日
|