小説 川崎サイト

 

忌み屋敷

川崎ゆきお


 少しややこしい通りがある。住宅地の外れにあり、道は工場と住宅地を区切っている。つまり、片側は工場、片側は住宅だ。
 通りは住宅地の端、工場はその裏側に位置する。
 工場のコンクリート塀は色あせ、その下に排水溝がある。どぶ川だ。道幅が狭いため、一方通行になっている。
 この通りがややこしいわけではない。通過するある箇所がややこしい。とある屋敷前だ。
 屋敷と呼べるほど広い。ただし今は廃屋だ。石垣を巡らせ、その上に目隠しのような感じで木が植えられている。石垣付きの生け垣だ。ただ、その木は伸び放題で、枯れている木もある。
 その屋敷の並びの家は、ほぼ建て替えられ、今風な家となっている。
 夜、その前を通るとひんやりするらしい。きっとそれは生け垣のせいではないかと思えるのだが、廃屋前だけに、そう受け取りにくい。
 昼間通っても、陰鬱で暗く、不吉なものを見たような印象が残る。
 ある怪奇趣味者は「忌み通り」と名付けている。何となく葬式をやっている家の前を通るようなものなので。
 その忌み通りの忌み屋敷に、亡くなった人がまだそのままいるのではないかと、尾ひれが付いている。
 幽霊の目撃談もある。屋敷前に近付くと青白いものが見える。さらに近付くと、青と白二色の女性が立っている。映像的には赤外線カメラや超高感度カメラで写したような絵だ。
 この目撃者は信用ならん人物で、よく虚言を吐く。そのため、誰も信用していないが、記憶として残るようだ。つまり、その映像を想像してしまうのだ。
 屋敷前を歩いていると、声を掛けられたという話もある。電気代の節約で、夜中に工場が稼働しているときがあり、その機械音かもしれない。無機的な音でも言葉として聞き取ってしまうことがある。
 いずれの体験談も、ここが忌み屋敷であることを知っている人が言い出していることなので、尾ひれの一つだろう。
 その後、忌み屋敷は取り壊され、更地となった。
 もう、幽霊の噂は聞かない。
 
   了
 


2013年1月17日

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