小説 川崎サイト

 

再夢草

川崎ゆきお


 ある男が明け方夢を見た。
 しかしまだ眠いので、二度寝した。すると夢を忘れてしまった。
 男は夢判断にこっており、忘れてしまうと、占えない。
 そこで魔法屋へ行き、再夢草を買って飲んだ。この薬は忘れた夢を思い出すことができる。
 男は昼寝し、夢を見た。明け方に見た夢と同じものを見た。忘れていたが、確かにそんな夢だった。
 その夢は古い町並みを歩いている夢だ。
 昔、住んでいた古い町だと、すぐに分かった。ただその夢にはドラマチックなものや、印象的なエピソードがない。
 古い町並みの、細い路地をただひたすら歩いているだけの映像だ。
 壁板がはがれていたり、トタンで補強されていたりする。そのトタン板もはがれそうなのか、その上にまた板で打ち付けてある。定規を使って描けないような曲がり方をしている。
 洗濯竿をかける板が突き出ている。三本ほど乗せることができるのか、三カ所窪みがある。しかし竿は乗っていない。
 かなり詳細で高解像な映像だ。さすがに再夢草の威力はすごい。高いだけはある。
 男はそれですっかり明け方の夢を思い出すことができた。むしろ思い出しすぎだ。
 しかし、男は困ってしまう。
 夢のお告げが見えないのだ。特に気になるような夢ではない。何も伝わってこない。
 この男にとっての夢占いは、気付きなのだ。夢が何かを気づかせてくれる。これが明け方に見た夢の中にはない。
 単純な夢でも、そこから強引にお告げを取り出すことはできる。しかしその場合、心に本当に響いてこない。電気が走らないのだ。
 だが、せっかく高いお金を出して再夢草を買ったのだし、また昼寝までしたのだから、お告げなしではもったいない。
 夢は昔住んでいた町の裏道なので、たまにはそのころの心意気を取り戻そう……というようなお告げを創作した。
 あまり現実に影響を与えないような無難なお告げだ。
 
   了
 


2013年1月19日

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