小説 川崎サイト

 

垣根

川崎ゆきお


 吉田は散歩中、花を見つけた。別に花を探しに散歩に出たわけではない。しかし、その花はよく目立った。赤い花だ。赤は目立つ。飛び出して見える。
 場所は工場の跡地に出来た公園だが、勝手に入れないが通りから中は見える。ちょっとした広場があり、自転車がある。子供用の自転車だ。練習用だろうか。公園内には花壇があり、噴水がある。
 赤い花は、その公園の垣根なのだが、歩道すれすれに植えられている。その向こう側に柵がある。柵だけでは殺風景なので、赤い花の咲く木を植えたのだろう。
 季節は冬。この時期にしか咲かない。
 吉田はこの場所をよく通るのだが、その垣根などいちいち見ていない。しかし、赤い花が咲いてからは、意識するようになった。
 やはり花が咲かないと見てもらえないものがあるようだ。この木は花がなくても垣根としての用は果たしている。花はおまけだろう。
 吉田は花以外のところも見た。葉だ。
 その葉は分厚く、光沢がある。特に目だった葉ではないので、葉だけではやはり弱い。ただ密度が濃い。だから、垣根として使われているのだ。
 吉田はその後、他の垣根を見るようになった。小さな白い花を付けているのもあった。次の世代を残すため、花を咲かせ実を結ぶ。種だ。人はその花を愛でたり、実った果実を食べたりする。種は捨てる。
 しかし、垣根の木は栽培用ではない。垣根の役目、つまり目隠しや風よけになればいい。花が咲こうが実を結ぼうが、それは期待されていない。おまけなのだ。
 しかし、これもまた観賞用としての企みがあったのだろう。普段はただの垣根だが、ある季節だけ花の彩りが加わる。
 垣根の木は誰かが植えないと、垣根にはならない。それを選択した人がいる。あの木ではなく、この木だと。
 この工場跡の私設公園の垣根は、誰がその木にしたかだ。
 探偵小説なら、これは誰かの企みで、赤い花の咲くこの垣根を見れば、犯人や関係者がぞっとする深い意味が隠されている。何かの符号なのだ。
 公園から子供の叫び声がする。自転車の練習中のようだ。
 
   了



2013年1月21日

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