小説 川崎サイト

 

魔法使い

川崎ゆきお


「魔法が許されると大変なことになりますねえ」
 魔術師の里で弟子が師匠に聞く。
 弟子はとある魔法使い須藤の部屋でテレビを見ていた。当時その弟子は魔法を信じなかった。今は信じたからこそ魔術師の里で修行している。それを信じるきっかけとなったのが、須藤の部屋だ。須藤は魔法使いだ。
「では、見せてあげようか。魔法を」
「ああ、見せてくれ」
 須藤はテレビに向かい、ぐっと念じると音声が消えた。その番組は生中継で温泉地を紹介していた。簡易中継機で情報を飛ばしていた。先ずは音声が途切れ、次に画面がフリーズした。
 すぐにスタジオに画面が切り替わった。司会者はすぐに回復すると思い、しばらく黙っていたが、なかなか回復しないので、電波事情云々がどうのと話し出す。
「今のは君がやったのか」
「そうだ」
 須藤はもう一度念を送った。
 すると、中継が繋がったのか、温泉地の画面に切り替わった。
「今のは」
「解除したんだ。もう一度途切れさせてやろうか」
「ああ」
 須藤が念を送ると、またフリーズした。
「止めてくれ、信じる。魔法を信じるから」
 須藤は念を送り、元に戻した。
 ここまでは夢だ。
 しかし、その夢を正夢と思い、魔法の里に弟子入りした。そして、師匠に聞いたのだ。魔法が許されると大変なことになると。
 師匠は心配には及ばないと答えた。
「どうしてですか」
「魔法封じが施されておるかな」
「じゃ、放送局にも」
「街全体じゃ」
「なるほど」
 弟子は簡単に納得したが、それでは面白くない。夢で見た須藤のようなことをやってみたいのだ。それができないとなると、魔法を覚える気がなくなる。
「では師匠、私達はどうして魔法を学ぶのですか」
「魔法を学ぶのではない。魔法封じを学ぶのだ」
「ああ、なるほど」
 弟子は、ここでもすぐに納得してしまう。
「まだ、防御装置の出来ておらん場所や、防御が届きにくい地域がある。仕事は多いぞ」
「魔法使いが送ってくる念を打ち返す念を発する仕事ですか」
「そう言う場合もあるが、滅多にない。それにそんなことをしていると身が持たぬわ」
「では、どのようにして」
「封印装置の設置とメンテナンスかな」
「はあ」
「それを設置するとき、多少の魔法が必要じゃ。、この里ではそれを教えておる」
「封印装置とは何ですか」
「魔法石のようなものじゃ。昔は大きな石版だったが、最近は非常に小さい。それをこの町なら愛宕山の頂に埋めてある」
「ああなるほど」
「それも面倒なので、最近では人工衛星でさらに広範囲を」
「分かりました。魔法は存在することは分かりました。それで危険なことにならないのは、封じているからだと」
「そんな基本的なことも分からず、弟子になったのかね」
「すみません。私も須藤のように魔法で中継を止めたりしたかったので」
「それは君が見た夢だろ。そんな須藤のような男がいたとしても、すぐに念の発信場所は分かる。すぐに魔法警察がお縄にするさ」
「縄」
「逮捕するということじゃ」
「はい」
「まあ、地味なメンテナンス作業なので、君も頑張るように」
「あ、はい」
 
   了


2013年1月28日

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