小説 川崎サイト

 

朝食

川崎ゆきお


「私は朝、トーストとゆで卵を喫茶店で食べる。ゆで卵じゃが、私はミヌキと言っておったが、それが通じなくなってからは、もうミヌキとは呼ばんようになった。それがいつ頃のことなのかは定かではない。世間に合わせ、ゆで卵と言うことにしておる。これはオニギリとオムスビにも当てはまる。しかし私の場合、これはごっちゃでなあ。統一しておらん。ところであなたは、朝はどうしておられるかな」
「朝ですか。起きます」
「それは分かっておる。朝食じゃ」
「昨日の残り物をお茶漬けで食べますので、特に決まった献立はありません」
「昨日の残り物がない場合は如何に」
「残すようにしてます」
「ご飯は」
「食べきってしまうことがあります。その場合、ありません」
「朝のことを考えて、ご飯を残さぬのか」
「いつもなら、残します。しかし、夜に食べ、さらに遅くまで起きていると、小腹がすき、ついつい朝用のご飯を食べてしまうことがあります」
「段取りが狂うことを承知の上で食べるのか」
「はい」
「じゃ、朝に何も残っておらぬ時は如何に」
「朝からラーメンもなんなので、そうですねえ。困ります。まあ、朝の散歩に出たとき、コンビニでパンなどを買って帰ります」
「その点、朝は喫茶店のモーニングでトーストとゆで卵を食べる方が安定しておる」
「そうでしょうけど、お腹、すきません」
「少しな」
「不満じゃありませんか」
「パン切れ一枚。それは確かに少ない。二枚は欲しい」
「その喫茶店から戻られてから、また食べるとかはありますか」
「ある」
「その頻度は」
「三日に一度かな」
「それは難儀な」
「しかしじゃ、食べきれん朝もある」
「その頻度は」
「一週間に一度ぐらいかな」
「喫茶店のモーニングサービスって、量が決まってますからねえ」
「しかし、手間がかからん。多少の不都合は寛容範囲内じゃ」
「カロリー的にはどうなんでしょう」
「トーストにはバターかマーガリンが塗ってある」
「どちらか分かりませんか」
「分からん。バターとマーガリンの違いなど考えことなどない」
「それは同意できます」
「他の客の話だが、ジャムを塗ってもらっておる客がいる。これは分かる。バターとジャム、マーガリンとジャム、この違いははっきりしておる。バターとマーガリンの違いよりしっかり分かる」
「はい」
「それでだ。私も時には羨ましく思うこともある」
「何がですか」
「私もジャムを塗ってもらいたく思うときがある」
「じゃ、リクエストすればいいじゃないですか」
「それはできん」
「毎回じゃないからですね」
「御名答」
「ジャムもいいとは思いながらも、そこは我慢だ。そう思うときのパターンがある。それは食欲が沸かないとき」
「一週間に一度の頻度ですね」
「そうそう。そのときはジャムが塗ってあれば食べきれるのではないかと思う。試したわけではないので、何とも言えんがな」
「じゃあ、帰りにジャムパンを買って食べしてみられては」
「そこまでするには及ばん」
「つまり、喫茶店のモーニングサービスに多少の不満を持っているわけですね」
「私の体調の問題で、そのサービスに対してではない」
「でも、毎日同じ朝食を食べ続けるのは、いいかもしれませんねえ。安定しています」
「サラダ付きのAセットにしたい」
「ああ」
「いや、これは希望じゃが、なかなかできん」
「高く付くからですか」
「そうではない。一度決めた方針は変えられぬ。と言うより」
「何でしょうか」
「と、言うより、こだわっているように見られるのが嫌じゃ」
「はあ」
「食事に喫茶店へ行くのではない。コーヒーを飲みに行くのじゃ。そのおまけがトーストとゆで卵。付いてくるので仕方なく食べているというポーズをしておるが好ましい」
「ああ、なるほど」
「理解できましたかな」
「何となく事情が分かりました」
「分かればよろしい」
 
   了
 


2013年2月1日

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