小説 川崎サイト

 

蛇神と犬神

川崎ゆきお


 冬の中でも特に寒い日、妖怪博士付きの編集者がやって来た。
「寒いのに元気だな」
「いえいえ、月参りですから」
「私は神仏か」
「ただの様子伺いですよ」
「そうか」
「今日は蛇神と犬神について伺いに来ました」
「知らん」
「それはないです」
「寒いので、面倒なことを考えたり話す余裕はない」
「蛇神は水神のことですね」
 編集者は無視して本題に入る。
「ああそうなのか」
 妖怪博士は乗ってこない。
「犬神は、オオカミですかね」
 これにも妖怪博士は答えない。
「どうでしょう。博士」
「答えなくても、君は既に知っておるではないか」
「はい、大体は調べました」
「では、聞くまでもない」
「蛇神と犬神が戦えば、どちらが勝つでしょうか」
「どちらも何かの比喩じゃろ」
「はい。でもキャラとして立ってます」
「戦わすには、それなりに揃えねばならぬ。同じようなクラスでないと比べられん」
「では四国の犬神と、九州の蛇神では」
「それは犬神使いと、蛇神使いと言うことだな」
「はい、ですからもろに犬神や蛇神が出てくるんじゃありません」
「では蛇と犬とでは、どちらが強い」
「蛇かもしれません」
「では蛇とマングースとでは」
「それは互角かと。だから戦いません」
「マングースは猫系じゃ。だから、猫神と蛇神の戦いになる」
「猫神って、いますかねえ」
「山猫を神として敬う人もいたはず」
「猫は猫又です」
「それは妖怪じゃ」
「話を戻しますと、蛇は龍で、これはドラゴンですよね」
「要するに君はドラゴンが強いので、犬やオオカミなど足元にも及ばんと言いたいのだろ」
「日本では八岐大蛇ですよ。犬なんて、犬のままじゃないですか」
「犬は変身せんか」
「オオカミに変身する狼男がいますが」
「寒いので、ここまでじゃ」
「話がですか」
「エアコンがないので寒いのよ」
「あ、はい」
「私は蛇神ではなく、水神さんが好きかな」
「でも、それは蛇を祭っているのでしょ」
「いや、水じゃ」
「じゃ、蛇は切り離されて」
「その方がマイルドだろ」
「はあ」
「風の神様、風神もいい」
「風も龍じゃないですか。雲を呼ぶのは龍ですよ」
「だから、龍からも切り離して、ただの風でよろしい」
 妖怪博士は震えだした。
「風はよくないかもしれん。真冬の隙間風はきつい」
「先生、もう少し盛り上げて下さい」
「風邪にやられたようじゃ」
「悪寒ですか」
「ああ、熱もある。今日はここまでじゃ」
「はい」
 
   了


2013年2月10日

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