小説 川崎サイト

 

要塞

川崎ゆきお



 人工の池だが掘ったものではない。田圃に水を引くためのものでもない。少し離れたところに田畑はあるが、近くに川が流れており、ため池の必要はない。
 掘らずにできた池はダムと同じ造り方だ。せき止めることで水が溜まり、湖になる。
 池の周囲は低い山が続いている。市街地のある盆地も山一つ越えれば出られる。<BR>
 市街地から見れば、里山の裏側に位置する。<BR>
 その人工池の横に巨大なコンクリートの建物がある。地元の人達には関係のない施設だ。
 この人工池は施設からの景観のために作られたものかもしれない。池の周囲は整備され、散策できるようになっている。一般市民の出入りは自由だ。また、ハイキングコースから入り込むこともできる。
 池には白鳥が浮かび、錦鯉が泳ぎ、亀が甲羅干ししている。それを見ながらジョギングや犬の散歩に人が来る。普通の公園と同じだ。
 その施設の庭のように、この池は見えるかもしれない。単なる谷間の雑木林の風景ではなく、自然公園として眺めのよい絵になるはずだ。
 しかし池から施設への入り口はない。目の前に施設の建物があり、その庭が見えるが、植え込みや柵で仕切られている。
 施設に入るには正面へ回らないといけないが、かなりの距離になる。
 施設の中にホテルが入っているのだが、この建物はホテルではない。山の中にある国際会議場なのだ。
 ある時、初老の婦人グループがジョギングを終え、施設内にあるホテルの喫茶室へ入ろうと試みた。目の前に見えているのだから、入れると思ったのだろう。
 しかし、巧妙に仕切られた生け垣をはなかなか抜けられない。抜けられるようにできていないためだ。別の植え込みから進むと、施設の庭の芝生が見えるところまで寄れるのだが、蜘蛛の巣のように目立たない網フェンスで塞がれている。
 婦人グループはそれであきらめたのだが、長年ここを散歩している老人が妙な噂を聞いている。
 あの施設は会議場ではなく要塞で、植え込みを手入れする職人は軍人らしい。またフェンスには高圧電流が流れており、犬や猫が黒焦げで死んでいたとかだ。
 その視線で建物を見ると、軍艦のような威圧感が漂うから不思議だ。
 
   了


2006年09月21日

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