小説 川崎サイト

 

半端な夢

川崎ゆきお


 徳田は懐かしいような夢を見た。近所にある店屋の夢だ。どうしてその店屋なのかが分からない。そんなことは滅多に思い出さない子供のころの話だ。
 夢は昼間のことが夜になって現れることがあるらしい。それで、昼間、その店屋に関することで、何かなかったかと考えた。
 すると、昔、徳田が住んでいたころの家の周囲をふと思い出したことがある。隣の家の塀があり、小さな溝がある。片側は板の塀で、片側は生け垣だ。溝にはどぶ板が填められていた。だから、狭いが通れる。この抜け道を、昼間思い出していたのだ。
 夢で見た店屋は、その溝の先にある。そこまでは昼間、思い出していない。
 だから、夢はその先へ誘ってくれたのだ。その溝は大通りにぶつかるが、まっすぐ行けば店屋だ。
 徳田は社宅に住んでいた。そのため、この町は全て会社が所有している。社員のための住宅地だ。そして、その店屋は売店と呼ばれていた。これが社員寮なら購買部のようなものだろう。日用雑貨品からお菓子まで置いてある。だから、普通の店屋ではない。
 その売店は今でいえばアウトソーシングで、何カ所かある社宅住宅地内に店を構えている。だから、一般の小売店のように、普通の町先にはない。
 さて、夢の中での徳田は、大人になっており、その売店へ食パンを買いに行った。ここは個人商店ではないので、店員は制服を着ていた。作業服のような感じで、これは炭俵などを配達するためだろう。
 夢の中では、昔の売店ではなく、新しくなっており、屋号も出来ていた。小さなスーパー、それは今でいえばコンビニのように改装されていた。
 徳田は食パンを買いに来たのだが、その上に塗るものも探していた。食パンは入り口ですぐに見つかったが、塗るものが見つからない。それもそのはず、何を塗るのかを忘れたようだ。マーガリンではないもの、当然バターではなく、ジャムのようなものでもなく、意外なものを思い付いたのだが、それが思い出せない。
 その売店には店員がいない。これは、昔はそうだった。奥にいるのだ。コンビニのようになっているのでレジがしっかりとある。しかし、いない。
 そして、塗るものを探して店の端っこへ行くと、そこに窓があり、外を見ると、歯の抜けたような更地がある。二坪ほどだろう。駐車場ではない。改装したときは、そこまで売り場だったようだ。なぜ一度建て直したのに、また狭くしたのかは分からない。それは夢の話なので、徳田との絡みで、そんなイメージとなっているのだろう。
 そして、食パンに何を塗るのかを思い出せないまま、店内をうろうろしているところで、目が覚めた。
 さて、大変だ。
 難解な夢である。徳田は解けなかった。
 しかし、リアルでのこの売店は、何度もリニューアルし、最終的にはスーパーを展開した。しかし、住宅地の狭い敷地しかなく、駐車場もないことから、数年で潰れた。まだコンビニが町内に出来るまでの話だ。
 徳田は更地となったスーパー跡をリアルで見ている。そして、今は土地も売り払われ、普通の住宅が建っている。
 溝の向こうにあった売店。今はその溝はなく、境界線は一枚の塀で仕切られ、隙間はなくなった。
 要するに、何とでも解釈出来る夢だ。ただ、しっかりとした軸がないまま、垂れ流されている夢のため、半端な夢となっている。
 徳田はその後、食パンに何を塗るつもりだったのかを考えたが、思い出せない。夢の中で、早くそれを思い出しておれば、展開も変わっただろう。
 
   了

 


2013年2月23日

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