小説 川崎サイト

 

神木

川崎ゆきお


 高島は神社の前を通りかかった。鳥居の向こうに大きな木がある。
鳥居と巨木の間は何もないスペースだ。村の神社なので境内は広くはない。
 その巨木はおそらく神木だろう。その証拠にしめ縄が頭より高い位置に巻かれている。白い紙も垂れ下がっている。紙垂というのだろうか。最近のものだ。正面は鳥居側だろう。裏側は社だ。だから、表から見えるように飾ってある。それが横綱の綱に見える。相撲の横綱が土俵入りをする映像を高島はテレビで見たことがあるが、あれに近い。横綱は神木のように神体なのだろうか。
 また、超有名な神社などで奉納相撲をするため、境内を歩いているのも見たことがある。
 四股を踏んだりするのは、土地を安定させるためだと聞いたことがある。地固めだろうか。それが物理的に効果があるとは思えないが、儀式としては分かりやすい。
 高島がふと立ち止まったのは、陽射しだった。
 陽射しが神木やしめ縄や垂れた紙に見事に当たっているのだ。神々しい。
 それにつられて、鳥居を潜ってみた。
 近づくと、ただの木であり、ただの藁縄なのだが、こういう神域がまだあることに、少しは驚く。
 大きく驚かないのは、そう言うのは何処の村にもあるためだ。
 それよりも、最近この種の立派な樹木がよく枯れているらしい。
 高島はそれをニュースで知っていた。それは毒殺のようなものだ。犯人がいる。そして枯れた木を買う。さらにその木を何処で使うのかというと、神社で使ったりする。
 そんなことを思い出しながら、神木を見ていると、声を掛けられた。
 神様からではない。
 近くの人だろう。
「もしもし」
「はい」
「何か用ですか」
「いや、神木に陽が差して、神々しいので、つい見とれてました」
「あ、そう」
 その人は、胡乱げに高島を見ている。半ば威嚇だ。
 あの神木枯らし事件と関係するのかもしれない。その下見に来た犯人ではないかと。
 ただ、その事件は、この辺りの話ではなく、もっと山里での事件だ。ここは宅地の中の神社で、しかも通りから丸見えだ。人目が多すぎる。
 高島は神木を見ている。
 その横で男はじっと高島を見ている。
 睨み合った状態ではない。見ているものが別々なのだ。しかし、そばから離れないで、じっと横に立たれると落ち着いて観察出来ない。当然それが、この邪魔者の目的なのだろう。
 もう高島には聖なる時間を過ごす、などという呑気な雰囲気は消えている。その男の目的は、出て行けだ。
 おそらくこの神社の氏子かもしれない。
 高島は、ぱんぱんと柏手を打ち、片足を上げ、「よいしょ」と自分で声を上げて地面を踏んだ。
 横の男はびっくりしたようだ。
 そのまま、高島は立ち去った。
 
   了
 
 


2013年2月26日

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