小説 川崎サイト



門田の肩

川崎ゆきお



 門田係長は肩を叩かれた。肩がこっていないのに肩叩きされた。もう肩がこっているだろうと配慮された。そんな親切な配慮のある会社なら肩は叩かないだろう。
「重荷を降ろすと楽になるよ」人事部長が言いにくそうに言う。
「別に重くないです」
「いや、重いだろう」
「肩の荷を降ろして初めて重かったことに気付くものだ。君はその時期にきている」
「定年までは無理ですか?」
「うちの会社は定年はなくなったのを知ってるね」
「喜びました」
「どうして?」
「ずっと働けると……」
 部長はとぼけられたのでむかっとした。
「能率社会だからね。効率を優先させる。僕が決めたわけじゃないから恨まないでくださいよ」
「私は去年やっと係長になったばかりです。定年まで平のままかと心配でした」
「決まったのは今年からでね。恨まないでくださいよ。上が決めたことだから」
「つまり、首ですか」
「あなたを必要としている会社があるはずです」
「何処に?」
「世の中の何処かに」
「いつから……」
「冬のボーナスが出てからでどうですか。いい配慮でしょ」
「じゃあ、正月はもう社員じゃないのですね」
「お疲れさまでした」
「もう決まっているんだ」
「それはあなたが自主的に決めたことですから」
「まだ決めてませんが」
「自主退職の場合、最大限の配慮はしますよ」
「もし辞めないと言えば?」
「違う職場へ移ってもらいます」
「それでもいいです」
「離島での営業になりますが、いいですか?」
「それは、困ります」
「ちょっと定年が早くなるだけですよ。定年後の再就職よりも、有利かと思いますが」
「定年後は再就職する気はありません」
「だったら、早く楽になったほうがいいのでは」
「そうですねえ」
 門田はちょっと楽しい気分になった。
「元気が出てきました」
 部長は複雑な顔で頷いた。
 
   了
 
 




          2006年9月25日
 

 

 

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