小説 川崎サイト

 

よく見かける人

川崎ゆきお


 背が低く、小太りで丸顔の中年男。丸い縁取りの眼鏡。このアンコ型の小男を合田はよく見かける。宝くじ売り場で並んでいるのを見たり、映画館では後ろの席にいる。たまに入る喫茶店でも、隅っこの席にいた。営業で廻っていた社内にも、いた。
 この男と竹田との接点はない。しかし、至る所で見かける。
 きっとに似たような人が複数いるのだろうと、最初思っていた。直接関わらないのだから、害はない。
 それを意識し始めてから遭遇頻度が増えた。最近ではこちらから探している。見つからないこともあるが、意識していないときに限って、そこにいる。
 だから、別人だろう。そういう体型の人は結構いる。その証拠に服装が違うし、髪型も少しだけ違う。持っている鞄も違う。
 もし、電車に乗ったとき、座席に全部その小太りで丸い縁取りの眼鏡の客ばかりなら驚くだろうが、そういうことはない。それは、別の世界に入ったと見るべきだろう。しかし、そんなことはまずないので、日常範囲内だ。
 背が低く小太りで童顔。よく見るタイプだが、学校のクラスに一人か二人いる程度だろう。だから、決して多くはいないが。
 竹田の知っているこのタイプの人は、会社の上司だ。よく出来る人で、竹田との相性も悪くはない。うまくいっている。アンコタイプなので押し相撲かと思っていたら、離れてもよし組んでもよしの万能タイプで、調整型でもあり、守備も出来、攻撃も出来る。
 この上司が、あちらこちらに現れる小太りの中年男の原型かもしれない。
 つまり、竹田は、この上司を意識しているのだ。それを知らないのだ。
 だから、方々で上司と遭遇している。これは上司の存在が、まるで監視カメラのように作動しているようなものだ。
 その後、竹田は転勤となり、別のオフィスへ移った。
 すると、もう背の低い小太りで丸顔の中年男を見かけなくなった。
 その代わり、やせ形のノッポで、鼻だけが非常に大きい中年男をあらゆる所で見かけるようになった。
 
   了

 


2013年3月9日

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