小説 川崎サイト

 

見守り情報

川崎ゆきお


 見回りボランティアが岩田老人宅を訪ねた。
「お変わりありませんか」
「あんた四十三だったかい」
「え、はいそうですが」
「宮田さんだったねえ」
「そうですが」
「大黒さんは最近来ないけど、彼女は三十六と、若いねえ」
「よくご存じですねえ」
「大黒さんは辞めるんかもしれないねえ。先月はずっとお休みだったんだろ」
「はあ」
「宮田さん」
「はい」
「あんたの出身地は信州だってねえ」
「え、そんな話、しましたか」
「宮田さん」
「はい」
「あんたのご主人、市会議員の息子だってねえ」
「ああ、はい。でもどうして、そんなこと、知ってるのですか」
「最近ネットをやっていましてなあ」
「ああ、そうなんですか。でもうちの団体、ホームページなどありませんよ」
「いや、あんたところの名簿は上がってますよ」
「え」
「宮田さん、あんたの血液型はAB型ですね。身長は百六十二」
「どうして、そんなことが」
「牧田さんですよ」
「あの牧田さんが何か」
「自分のブログで、書いてましたから」
「えっ」
「注意しないと、どんどん書き込んでいますよ。何処で調べるんでしょうかねえ。私のところにも電話がかかってきて、色々聞いていましたけど」
「それはまずいです」
「ちょいと見せましょうか」
 岩田老人はノートパソコンを玄関先に持ってきた。
 見回り人の宮田はそれを覗いている。
「これは」
「まずいでしょ」
「削除してもらいます」
「しかし、これ、私自身の情報より、詳しいですよ。あんたたちのこと、これでかなりよく分かりました」
「削除です。すぐさま」
「里中さんって、二度離婚してますねえ」
「もういいです」
「いえいえ、私らも、あんたらのことを見守っているのですよ」
 
   了

 


2013年3月11日

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