「いるんだよね、池のヌシみたいな奴がさ」
「何とかなりませんか?」
熊野はどうなるものでもないことは分かっていたが、つい言ってしまった。愚痴に属することぐらいの分別を持てる歳になっている。
「何処の場にも発生するんだよね。まっ、人が集まる所ってそんなものだよ。仲間に入る必要なんてないんだからさ、行かなけりゃいいんだよ行かなきゃ」
「でも、あの施設は誰でも自由に参加出来る場所でしょ。みんな平等な立場で」
「人が集まれば、そんなものだよ。大きな声でさ、沢山喋る奴に引っ張られるんだよね」
「土手のゴミ拾いをやろうって言い出して、もう決定しましてねえ。私は賛成出来なかった。他の人の中にも嫌がってる人がきっといるはずですよ。それが言い出せないのは彼奴のせいなんだ」
「まあまあ、この歳で大人気ない話はやめましょうよ。長く生きて世間見てきたら、当たり前の話でしょ」
「のさばっているのが気にくわんのですよ」
「それで、ゴミ拾いはどうします」
「行くわけないでしょ」
「じゃあ、あそこへも、もう寄らないってことだな」
「まあ」
「他に行く所、方々あるでしょ」
「あの施設近いし、無料だから」
「じゃあ、ゴミ拾いに行きなさいよ。多数決で決まったんでしょ」
「彼奴が勝手に言い出しただけなんだよ。余計なこと言い出して、自分の手柄にするつもりなんだ」
「つまり熊野さんはゴミ拾いが嫌なんじゃなく、彼奴が嫌なんだ」
「そうなんだろうな……きっと」
「会社ではどうしてたの?」
「何を?」
「こういうとき」
「行きますよ、仕事の内なんだから」
「じゃ、行けばいいじゃないですか」
「だって、彼奴に食わしてもらってるわけじゃないんだから」
「そうだね。会社だったら、嫌なことでも耐えてきたからね」
「もう人の顔を見ながら生きたくないんだ」
「じゃあ、もう行かないことにしたら? 人が集まる場って、そんなものだから」
「いや、私は彼奴を叩き出してやる」
「はははは、そっちへ行くか」
熊野は作戦を練り出した。
了
2006年9月28日
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