小説 川崎サイト



荒地

川崎ゆきお



 荒地が続いている。耕作を放棄した土地だ。人の手が入った形跡が今も残っている。草むらの中を捜せば鍬ぐらいはまだ落ちていそうだ。
 荒地は岩山に続き、さらに山々の懐へと至る。
 月丸はその荒れ地に何かを見付けた。
「やあ」
 と、軽く声をかける
「ああ」
「こんにちは」
「ああ。こんにちは」
「話せるのか?」
「ああ」
「動物かと思った」
 月丸はその生き物に近付く。
「人間か?」
「そうだ」
「この地の種族か?」
「あの山のもっと向こうにある部族だ」
「こんな所で何をしておる」
「休憩だ」
「旅人か」
「冒険者だ」
「拙者と同じだな」
「貴殿もか」
「怪物を追っておる」
「この辺りの怪物はわしが狩り終えた」
「そうか。それで休憩か」
「そんなところだ」
 月丸よりも強そうな男だった。怪物と風貌が似ていた。そういう種族だろう。
「俺はハーフだ」
 月丸はそれで合点がいった。
「貴殿は人間か」
「そうだ」
「じゃあ、都で高官になれるな」
「そんな気はない。生きているだけで一杯だ」
「仲間を組むか」
「一人のほうが気楽だ」
「強い敵に遭遇すれば困るだろ」
「逃げればよい」
「倒せば手柄になるぞ」
「二人なら手柄は半分だ」
「半分でも手柄が増える」
「じゃあ、なぜ一人でいる?」
「もう狩りはやめたいからさ」
「飽きるからなあ」
「この荒地を耕そうと思う」
「それも悪くなかろう」
 月丸は岩山の怪物を狩るため立ち去る。
 ひと月後、都に戻るため、あの荒れ地を通った。
 畝が出来ており、耕作地となっていた。
「おい」
 月丸は声をかけたが今度は返事がない。
 耕作をやめたのか、怪物に襲われたのか定かではないが、あの男は消えてもういなかった。
 
   了
 





          2006年10月1日
 

 

 

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