小説 川崎サイト

 

風邪の日

川崎ゆきお


 風邪を引いているときの竹田は意外と調子がいい。それは動きが規制されるためだろうか。
 外で用事をするのは控えたい。治ってからやればいい。熱っぽいと動きも鈍くなる。風邪薬を飲むと、鎮静作用なのか、眠くなる。すると、ますます動きが緩慢になる。張り切って何かをやろうとする気がなくなる。これがいいのだろう。
 それで最低限のことしかしなくなる。竹田は自炊なので三食作らないといけない。いつもなら出来るだけ美味しいものを食べたいと思うのだが、食欲がない。そのため口に入りやすい、喉に通りやすいものを選ぶ。当然風邪の症状で腹具合も悪い。従って消化のよいもの、胸焼けしないものを選ぶ。こういう規制が色々と働く。
 美味しいものではなく食べやすいもの。または食べられるものを食べる。どんな豪華な食事より、食べられるかどうかが問題になる。
 また、普段あまり見ていないテレビも見る。他にすることがないというより体力気力がないので、テレビのお世話になる。
 当然すぐに疲れるので、横になる。しかし、すぐに眠れるわけではない。
 横になっている方が楽なので、その姿勢でいるだけのことだが、ここで色々なことを考えたり、思い出したりする。これも忙しいときにはあまりやらない。
 友人から誘いの電話があっても、出かけなくてもいい。断る理由がはっきりとしている。風邪なのだから。
 しかし、これも長引くと辛くなるのだが、忙しい人は病気にでもならなければ休めないらしい。幸い竹田はそれほど忙しくはないので、仕事に影響するようなことは少ない。
 自宅勤務の竹田は、自室で仕事が出来る。いつもはサボりがちなのだが、風邪の時は意外と捗る。決して早く処理は出来ないのだが、ゆっくりながらも進んでいる。
 元気なときは、逆に仕事をしたくない。だから、取りかかるまでの時間の方が長い。
 テレビを見たりネットを見たりと、よそ見をしてことが多い。そういうとき、誘いの電話が入れば、すぐに外出する。そして戻ってからは、もう何もしない。
 風邪は三日、長くて一週間ほどで治ることが分かっているので、安心してられるのだろう。
 それで、結局竹田の風邪は二週間ほど続いた。意外と仕事が捗るので、無理をしたためだ。
 そして、治ってからはまた出歩きがちになり、落ち着いて部屋で仕事をしない日が続いている。そして、納期間際になって集中的に火力を投入する感じになる。
 なかなかバランスよくいかないものだ。
 
   了


2013年3月27日

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