小説 川崎サイト

 

自然に触れる

川崎ゆきお


 都市部に住んでいる高橋は人工物ばかり見ている。まるでそこは巨大なドームのようでもあり、また、すべてが屋内ではないかと思えるほどだ。確かに街路樹は作り物ではないし、空も絵に描いたものではない。
 しかし、作り物ではない生物がうじゃうじゃいるのが都会だ。つまり自然を見ているより人を見ている方が多い。
 そこでいつも思うのは、田舎の風景だ。少し長い目の距離を電車で行けば、それは見られるので、目の慰安のため、たまに出かける。
 しかし、昔話に出てくるような村があるわけではない。
 高橋が注目しているのは、あまり聞いたことがないような神社や、何が祭られているのかが分かりにくい祠だ。場合によっては鳥居だけで、その先は山道になっているような場所。山が御神体なのだろう。または「入らずの山」で、人が入ってはいけない山とかだ。宅地にでもならない限り、こういうのは結構残っている。また、放置されていることもある。
 確かにそこには人の手が加わっているのだが、あらぬものに対してだ。
 そして鳥居をくぐり、山道に入って行くと、さすがにそこは神域のためか、植林されていない。そのため、雑木林のようなものだが、森と言うほどの平坦さはない。やはりこれは山なのだ。
 樹木や下草がせめぎ合い、植物であっても闘っている。逆にすさまじい生命力を感じる。思っている以上に生々しく、リアルだ。
 高橋はまだ自然が大いに残っているものを見たいと思っていたのだが、実物を見ると引いてしまう。
 そして、帰りの電車の乗ったとき、ほっとしたりする。
 
   了





2013年4月1日

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