小説 川崎サイト

 

春雨桜

川崎ゆきお


 年配者達が集まっている。五人ほどだ。場所は花見の名所近くの食堂。天気が持たなかったようで小雨にとなっている。予報では夕方から降る確率が高いとなっていたが、昼過ぎにはもう降り出していた。
 この年配者五人組は何の集まりだろうか。それほど高齢ではないが、定年後しばらく経つようだ。ただ、会社員だったかどうかまでは分からない。老人クラブにしてはまだ若い。
 何らかの繋がりで、集団を組んでいるはずなのだが、よく分からない。決して不自然な団体様ではない。
 昔、構という団体があった。今でも商店街の店主達が構を作り、お参りに行ったりする。江戸時代ならもっと色々な構があったはずで、趣味だけの集まりも可能だ。
 さて、この五人組、何の組織かは分からないが、花見に繰り出したわけだ。しかし、雨なので桜の下までは行かない。また、花見用の用意もしていない。
 花見に行こうと誰かが提案し、誰も否定しなかったので決まったのかもしれない。提案した一人も、それほど行きたかったわけではなかったりする。
 花見の季節なので、「花見に行こう」程度だ。
 結局食堂で飲み会になったのだが、観光地のため、粘れない。客が表で並んでいるのを見ながら飲むのでは落ち着かない。
 それでもう引き上げることにしたのだが、花見を提案した一人が、せっかくここまで来たのだから、通り抜けしようと言い出した。他の四人は大いに賛成したわけではないが、それに従うことにした。提案者も雨の中、傘を差して歩きたくないのだろう。それに花冷えで、温度も下がり、薄手のコートでは寒い。また、二人は傘そのものを持ってきていない。
 幸い小雨なので、さっと一周して戻ってくれば問題はない。
 雨もぱらぱら人出もぱらぱらだ。
「こういうのを春雨桜というのですよ。ツウの花見ですなあ」
 と、先導者は言うが、他の四人は黙っている。その四人はいずれも相合い傘だ。
 早くこれを終わらせたいと思っている。
 しかし、先導する提案者が一番そう思っているのだ。
 
   了

 



2013年4月4日

小説 川崎サイト