小説 川崎サイト

 

深夜の目覚め

川崎ゆきお


 フッと夜中に目が覚める。悪夢で魘されて目が覚めたわけではなさそうだ。そんな夢を見ていたとしても、忘れているのだろうか。
 竹田は起き上がり、電気を付ける。いつもの自分の部屋だ。決して夢の続きではない。
 時計を見ると眠ってから三時間ほど経っていた。針は二時半を指している。夜中に起きることはあるが、そのほとんどがトイレだ。しかし、尿意がない。
 竹田はいつもの部屋だと思うものの、変なところに入り込んだのではないかと、あらぬ事を考えた。それは最初からあり得ない想像だ。
 眠る前と同じ部屋の明るさなので、部屋の見え方が違うわけではない。しかし少しだけ暖色系が混ざっているように感じられる。夕方のあの色に近い。しかし、それはほんの僅かだ。今まで眠っていて、急に目が開けたためだろう。
 こういうのは気にして見出すと、あらゆるものがいつもと違うように感じられるものだ。
 竹田はパソコンの電源を入れる。
 メーラーを起動すると、寝る前に見たメールの他に三つほど増えていたが、いつも来る広告メール。
 SNSを見ると、竹田が書き込んだものは大きく流れており、夜遅くまで書き込んでいる連中の書き込みが加わっている。それらも馴染みのある記事で、いつもは朝に読んでいる。
 ニュースサイトを見ると、こちらも寝る前に見た記事の他に、新しいニュースが二つほど増えていただけ。
 部屋の中に異常はないし、世間にも異常はない。異常と言うより、同じ空間、同じ時間軸が続いている。
 竹田が妙なことを思い付いただけなのだ。それは別世界へワープしたのではないか……と。
 数日前から始めたゲームのファーストシーンで、主人公がいきなり見知らぬ部屋で目覚めるところがあった。ゲームはその部屋のある巨大な地下空間からの脱出劇。
 そんなことを考えたのは、夜中の二時半に起きた原因が分からないためだ。今までなくはない。しかし、そこまで想像の翼は広げなかった。
 竹田は着替えた。まだやるつもりだ。
 そして、ドアを開け、マンションの廊下に出た。三階だ。夜景が見える。たまに車が通る。いつもの自分の町だ。
 もう、見ただけで、納得したのか、すぐに部屋に戻り、寝直した。
 
   了

 



2013年4月5日

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