小説 川崎サイト

 

雨の日

川崎ゆきお


 雨のためか元気がない。山下は低気圧の影響を受けやすい。他の社会的影響よりも、そちらのほうが目立つようだ。体も重く、頭も重く、そのため気も重い。
 山下は昼食後、自転車散歩を日課としていた。ところが雨では出かけにくい。だが散歩なのでどうしても出かけないといけない種類の用事ではない。
 雨の日は野良仕事を止め、家の中で本を読む。そういう暮らしをしている人が昔いたらしい。それに憧れているのだが、山下は農家ではない。野良仕事もない。また、退職しているので、働きに行く場所もない。
「小雨になれば出るか」
 昼食後なので、頭がぼんやりし、本を読む気にもなれない。それで寝転ぶことにした。このまま寝てしまうと昼寝になる。
「それもまあ、いいか」
 窓からは雨脚は見えない。だが、雨音は聞こえる。窓から地面が見え、水たまりでもあれば、雨の強弱は分かるのだが、そういう庭はない。
 だから、山下は雨音をずっと聞いている。そして寝転がったときと同じ音が続いている。
 天気予報では一日中雨らしい。上がるのは夜半とか。
 山下が狙っているのは、雨は降っているにしても、少し小雨になることだ。雨雲にも事情があって、一定の量でずっと降っているわけではないはず。雨もたまには休むだろう。
 山下は目を開けたまま横になっている。既に掛け布団も使っている。このままでは寝てしまいそうだ。しかし、雨が弱まれば消防士のように飛び起きる覚悟でいる。
 目を開けたままなので、部屋の中が見える。襖の上部だ。そこに何かの柄が描かれている。襖紙の絵だ。抽象模様なので、何かよく分からない。梅とか松とかなら分かりやすい。しかし、テープで貼ったような線が走り、所々にシミのような楕円が浮かんでいる。これはシミではなく書かれたものだ。全体を見ても意味が分からない。
 最初はそれを見ていたのだが、徐々にピントが外れ、何処にも焦点が合わなくなった。考え事を始めたためだ。しかし、その間も雨音には注意を払っている。
 その考え事もやがてピントが逸れだし、雑念や、思い出などに変わっていく。昨日見たテレビドラマのキャラが勝手に出てきたりとか。
 そして、フッと襖、つまり目の前のものを見ると、妙な形のものが泳いでいる。まだ、ピントが合っていないのだろう。襖の柄がそう見えただけのことだ。そして、しっかりと襖を見ると、いつもの抽象柄に戻った。
「雨」
 それを思い出し、雨音を聞こうとしたが、聞こえない。小雨になっていたのだ。
 山下はぱっと起きて、トイレへ行く。その窓からなら地面が見えるし、行き交う人も見える。傘を差さないで歩いている人がいる。上がったのだ。
 そして、山下はやや時間はずれたが、自転車で散歩に出かけた。
 
   了

 


2013年4月26日

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