小説 川崎サイト

 

鉛の海

川崎ゆきお


 人の手伝いばかりしていて、自分の仕事がなかなか捗らなかった。風邪気味の時も大森は手伝い仕事を続けた。
 それがやっと終わり一段落、一区切りが付いた。大森はこれでやっと本来の仕事に戻れた。
 先ずは骨休みと丸一日ぼんやり過ごした。仕事以外にもやることが溜まっており、時間がなかったのでそのままにしていた。
 溜まり物の多くは見ていなかったドラマの録画とか、チェックしていなかったウェブ上の記事などだ。
 やっとゆっくり出来るようになったので、それらを楽しんだ。
 この溜まりものも一段落付いた。次は本来の仕事に戻ることだが、この階段の一段が高い。高さは同じなので、足が重いだけ。上がらないのではなく、上げる気がしない。上げれば上げられるが、気合いが入らない。
 人の手伝いをやっていたときは、早く自分の仕事に戻りたいと思っていた。一番やりたいのはそれだった。その一番が解放されたのに、気が重い。やる気はあるはずなのだが、どうも様子がおかしい。
 人の手伝いをやる前に戻し、そこから始めればいいのだが、ここが重いのだ。
 それで、放置していたところまで戻って考えた。
 その答えはすぐに出た。
 自分の仕事がうまくいかないので、人の手伝いをやっていたことに。この手伝いは断ることも出来た。
 手伝い仕事は忙しい日々だったが、それなりに充実した。
 その充実加減が、自分の仕事にあるのだろうか。ないから手伝いに出たのではないか。
 と、大森は怖いことを考え出した。
 いやいや、そうではない。自分のメインの仕事をやるべきで、調子が悪いからといって投げ出せば、メインではなくなる。それに投げ出す気はない。ただ、気が重いだけなのだ。これはやり方や方向性が間違っている証拠で、そこを修正していけばいい。長く続けていると、そういうこともある。
 それは分かっているのだが、最近のこの気の重さは何だろう。そしていつもはどうやって、この鉛のような重い海から抜け出していたのかを考えた。
 大森の記憶では、そういうことは何度もあったが、特に解決方法はなかった。それなりに方法を考えたのだが、結局はいつの間にか軽くなっていた。
 気の重い状態が続いても、いつまでも続くものではない。あるところで、急に軽くなる。何もしていないのに。
 それを思い出した大森は、重いながらも階段を一段上がることにした。
 
   了



2013年5月8日

小説 川崎サイト