小説 川崎サイト

 

調子に乗る

川崎ゆきお


 調べのようなものがある。情緒的なもので、雰囲気的なものでもあるのだが、これは個人の心情でのことだ。
 ある場所での雰囲気や情感ではなく、ずっと流れている調べのようなものだ。調べ、では音のように限定されそうだが、それも含めての調子だ。これは体調の調子も含まれるが、それ以前に流れているものだ。
 調子がいいとか、乗っているとか、落ち込んでいるとか、そんな感じのものだが、内面的に勝手に起こっていることもある。
 これはある音楽がずっと頭の中でぐるぐると回っている状態に近いのだが、音だけではない。
 映画を見終えたあと、まだその余韻が残っているの近い。それはしばらくすると醒めるのだが、そういう感じのものが継続的に続く場合がある。
 ただ、それは数日続くこともあれば、半日で終わることもある。そして別の調べに取って代わる。あるいはいつもの調べに戻る。このとき、ノーマルなら、安定した情緒となる。その人がいつもよく使っている情緒であり、調子だろうか。
 この調べは内因、あるいは外因で振るわされることがある。それが何かいい雰囲気だと、その調べを継続させたくなる。快いからだ。決した楽しいだけではなく、居心地がいいのだろう。ただ、それも場所や場合によって使えないこともある。そのときは曲が切り替わる。
 くどいがこれは音楽の曲ではない。視覚的なことや匂いなどの五感を含めた雰囲気、ムードのようなものだ。これは実際には何かよく分からないカラクリでもある。
「難しいことを考えているんだね」
 友人にそのことを竹田が語ると、そういう答えが返ってきた。
「よく分からない話だね」
「簡単なことなんだけど」
「調べねえ」
「そういうことはないかな」
「まあ、調子のいいときは調子に乗って、テンションが上がる程度かな」
「だから、下がる場合も含まれるんだよ」
「調子に乗らないってことかい」
「そうそう、ローに入って、低空飛行モード」
「ああ、あることはあるなあ」
「そうだろ」
「それって、難しく言うほどのことじゃないよ」
「ああ、そうだね」
 
   了



2013年5月20日

小説 川崎サイト