小説 川崎サイト

 

三島の日記

川崎ゆきお


 三島は喫茶店の梯子が趣味だ。仕事はしていないので、ノマドではない。暇なので、ノートパソコンで、色々とやっている。日記を書いたり、ネットを見たり、電子書籍を読んだり。
 その朝、出かけようとノートパソコンを鞄に入れようとしたとき、充電用コードが外れているのに気付いた。いつもはそれを抜いてから鞄に入れる。力を入れなくてもコードが動いた。刺さっていなかったのだ。昨日、バッテリー残がぎりぎりだった。だから、持ち出せない。
 そこで、三島は古いノートを取りだした。こちらは充電用のコードを突き刺したまま置いている。放置状態だが、バッテリーは満タンのはず。それを持ち出した。
 そして、喫茶店でノートを開く。ずっと休止状態だったようで、何年か前のワープロの画面が表示された。
 三年前の日記だった。その日の文章を見ると、新しいノートパソコンを買うかどうかを検討していた。その後の日記はない。だから、買ったので日記も新しいノートに引っ越した。
 また、三年以前に書いたファイルが大量に出てきた。すべて、新しいノートに移しているので問題はない。
 この古いノートに、昨日の日記が書かれていたら、驚くだろう。また、書いた覚えのない文章や、覚えのない予定表が出てきたり……とかだ。
 三島は夢ならそんなことがあるかもしれないと思った。
 そして、いつものように喫茶店で日記を書き始めた。今日の日記だ。
 その日記ファイルは一ファイルに何ヶ月分も分けないで書いていた。そのため、三年前の次が今日になる。書かれていない三年分は、新しいノート側に移っている。当然の話だ。ただ、この間の空き方が気になった。新規ファイルで、今日の分だけ書けばいいのだが、習慣とは恐ろしい。そのまま続きを書き出した。
 予定表も三年前で止まっている。そこに今日や明日の予定を書き込んだ。使っているアプリケーションは同じだ。だから、いつもと同じことをしている。
 二軒目の喫茶店で電子書籍を読もうとしたが、そのアプリがない。どうせ今日一日しか使わないノートなので、ダウンロードはしなかった。というより三年間ネットに繋いでいないので、アップデートで大変なことになるため、接続しなかった。
 これは後悔談になるのだが、古いノートパソコンで書いた日記フィルを新しい側にコピーしてしまった。
 当然、三年間の日記は吹っ飛んだ。
 しまったと、三島は思ったのだが、今まで日記など読み返したことがない。そのため、消えても困らない。
 三年間の記憶が消えたわけではない。
 三島は自分にそう言い聞かせた。
 
   了
 



2013年5月21日

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