小説 川崎サイト

 

自由選択

川崎ゆきお


 自由は束縛されているほど、有り難く思える。自由に何でも出来るのはいいのだが、それは最初のうちで、飽きてきたり、やることがなくなってくると、自由の有難味も薄くなる。
 拘束から解放されると自由になる。だから、これは対になっているのかもしれない。自由に何でも出来る状態がいいのだ。実際には何もやらなくても。
 吉田は自由な時間を得ているのだが、これが結構面倒だと感じることがある。つまり、自由はあってもやることがない口だ。その吉田も長い間拘束されていた。服役していたわけでも入院していたわけでもない。会社勤めをしていたのだ。そのため、特に珍しい例ではない。
 要するに、退職後、やることがないだけのこと。
 そういう連中が集まるサークルがある。老人クラブほどには老いてはいない。その気になれば、再就職できそうな年齢だ。起業することも出来る。
 そのサークルで、ただ単に集まるだけでも、ネタになる。実際には楽しそうなイベントをやるのだが、人集まるところ必ずあるところの人間関係が生まれる。
 その中で、一番面白いのは政治ドラマだ。勢力、政権争い。そして戦いだ。
 特別なイベントなど仕掛けなくても、集まりさえすれば賑やかなことになり、ネタを得ることになる。
 吉田は参加後、すぐに派閥争いに巻き込まれた。多数決で決める場合を考慮し、各派閥は吉田を誘った。新人は取り合いになる。
 そして、このサークルでの行事は当面新人争奪戦となる。どの派が獲得するか、これが実は一番面白いイベントとなるようだ。将棋よりも面白い。生人間駒のため。
 このサークルには絶対的なリーダーがいない。もしいれば序列がしっかりと決まり、非常に安定した組織になるのだが、四分、五分するほど派閥を作ってしまった。人数が多いためではなく、どのグループ内のリーダーも強くないためだ。実はこれが一番面白い配置なのだ。
 吉田も曲者で、全部で五つあるグループの中で、一番小さなグループを選択した。勢力は弱いが中間派なのだ。つまり、意見が食い違ったとき、多数決となり、旗色が決まっていない中間派に誘いが来る。
 その中間派にもリーダーがいるが、まとめる力がない。だから、派閥としては緩い。
 そして、この旗色が曖昧な中間派に、吉田が加わることで奇数となった。つまり、多数決となったとき、最終的に新人の吉田が決めることになる。吉田の動きによって、このサークルが動くのだ。
 入ったばかりの新人にサークル運営の決定権がある。
 と、言うようなことを想像しながら、吉田は退職者が集まるサークルに加わったのだが、そんな面白い展開にはならなかった。
 実際に吉田に決定権があり、自由に決められるとしても、これはこれで悩みに悩むだろう。
 
   了



2013年5月22日

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